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最強のハンター、神の光を拾う。〜滅びゆく世界で俺はもう一度守りたい〜  作者: 蛮ニル
第4章 合理の名で壊れるもの

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【第96話 呼ぶ光】

挿絵(By みてみん)

 隙間は、人ひとりが滑り込める幅だった。


 歪んだ接合部に指を掛け、体をねじ込む。


 内圧が抜ける低い音とともに、冷たい空気が頬を撫でた。


 金属の匂い。

 乾いた空気。

 微細な油の気配。


 ルコールは静かに内部へ降り立つ。


 着地の衝撃を膝で殺し、呼吸を止める。


 音は、ない。


 外の砲火が嘘のように、静かだった。


 ここはもう、別の世界だ。


◇ ◇ ◇


 通路は広い。


 単なる整備通路ではない。

 車両搬送も可能な幅。


 天井高は五メートル近い。

 補助レールが走り、

 魔導導管が幾層にも張り巡らされている。


 壁面は均一。

 区画符号が規則正しく並ぶ。


 読む。


 砲塔数。

 推進炉の振動位相。

 外殻厚。


 この規模。


 最低でも数百。


 下手をすれば、千。


 乗員、整備兵、管制要員、警備。


 仮にここが空母規模ならば、管制室を制圧しても意味はない。


 副系統がある。

 自動管制がある。

 非常時の分散制御もあるはずだ。


 制圧は可能だろう。


 だがその瞬間、艦全体が戦闘態勢に入る。


 それは“戦争”だ。


 今やるのは違う。


 “狩り”だ。


◇ ◇ ◇


 曲がり角。


 視線を上げる。


 魔導式監視眼が一基。


 死角に入る前に、わざと一歩踏み出す。


 映ったはずだ。


 確実に。


 だが。


 警報は鳴らない。


 赤灯も回らない。


 足音だけが、規則正しく床に吸い込まれていく。


 違和感。


 監視は生きている。


 だが反応しない。


 誰かが止めている。


 それとも。


 誘っている。


◇ ◇ ◇


 そのとき。


 通路の先の照明が、一つ灯る。


 白い光。


 次の灯りが、さらに奥で点く。


 進行方向だけが、浮かび上がる。


 背後は、闇に沈む。


 誘導灯。


 だが、通常の避難灯とは違う。


 タイミングが不自然だ。


 ルコールが足を踏み出すと、

 わずかに遅れて次が灯る。


 呼吸に合わせるように。


 呼ぶように。


◇ ◇ ◇


 罠と考えるのが自然だ。


 あの戦争屋の顔が浮かぶ。


 クロウ。


 獲物を追い詰める男だ。


 無駄はしない。

 感情で動かない。

 確実に殺す。


 ならば。


 わざわざ道を示すか?


 否。


 あの男なら、ここで仕留める。


 ならばこれは――別の意志。


◇ ◇ ◇


 ルコールは歩く。


 灯りを追う。


 通路は幾度も折れ、

 階層が変わる。


 昇降路。

 補助デッキ。

 整備区画。


 同じ形の通路が延々と続く。


 同じ幅。

 同じ高さ。

 同じ扉。


 区画符号は並ぶが、

 構造を知らなければ意味を持たない。


 灯りがなければ、

 方向感覚はすぐに失われる。


 隠れながら移動するなら、

 一日では足りない。


 二日でも足りないかもしれない。


 巡回経路を把握する前に、発見される。


 この規模は、

 単独潜入を拒む構造だ。


 だからこそ。


 この“導き”は異常だった。


◇ ◇ ◇


 空気が変わる。


 温度がわずかに下がる。


 要塞の“鼓動”が、

 どこか不自然に静かになる。


 外殻沿いをなぞるように、

 灯りは移動する。


 時間の感覚が曖昧になる。


 どれほど歩いた。


 一時間か。


 あるいはそれ以上か。


 歩幅は一定。

 呼吸は一定。


 だが、精神だけが摩耗していく。


◇ ◇ ◇


 灯りが、揺らぐ。


 一瞬、消えかける。


 再び灯る。


 焦れている。


 そう感じた。


 急がせるように。


◇ ◇ ◇


 やがて、灯りは止まる。


 無機質な白い扉。


 他の区画と明らかに材質が違う。


 監視眼がある。


 だが、やはり警報は鳴らない。


 扉が、静かに解錠される。


 内側から。


◇ ◇ ◇


 踏み込む。


 広い。


 天井まで伸びる透明なポットが、

 幾列も並ぶ。


 淡い光。

 静かな液体。

 ゆっくりと昇る気泡。


 冷却装置の低い唸り。


 生命維持の律動。


 失敗作か。

 研究体か。


 数は多くない。


 中央。


 一基だけ。


 光が、わずかに強い。


◇ ◇ ◇


 近づく。


 液体の中で、

 何かが揺れている。


 長い。


 異様に長い。


 髪。


 銀にも青にも見える色が、

 水中で広がる。


 体は小さい。


 成長していない。


 だが髪だけが、

 時を重ねている。


 足があの時のままで、ない。


 管が繋がれている。


 静かな脈動。


◇ ◇ ◇



挿絵(By みてみん)


 ルコールの呼吸が止まる。


 喉が鳴る。


 拳が、わずかに震える。


 だが目は逸らさない。


◇ ◇ ◇


 瞼が、ゆっくりと開く。


 濁りのない瞳。


 まっすぐに、こちらを見る。


 液体越しでも、分かる。


◇ ◇ ◇


「……兵隊さん……」


 声は、直接脳裏に届いた。


 穏やかだった。


 責める響きはない。


 ただ、呼んでいる。


◇ ◇ ◇


 巨大な戦争機構の中心で。


 時間を奪われた少女が。


 兵隊を呼んでいる。


◇ ◇ ◇


 セラは、目覚めていた。


(第96話 了)

Xにセンシティブイラストも今回は差分で投稿しました。

怒られたら消してます。

※他作品も連載中です。

勤労に感謝を。働き続けた男の、転生スローライフ

https://ncode.syosetu.com/n1113lt/

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