【第94話 空を裂く者】
轟音。
風圧。
浮遊要塞の外殻が、目前に迫る。
ルコールは躊躇なく踏み出した。
◇ ◇ ◇
落下。
一瞬の無重力。
次の瞬間、掌底砲が噴く。
青白い推進光が掌から爆ぜ、
落下が前進へと変わる。
身体が弾丸になる。
クロウギアの導線が発光し、
両腕の微噴射で姿勢を制御。
外套が空気を裂く。
浮遊要塞外周。
砲塔列が、規則正しく並ぶ。
その一基が旋回を始める。
◇ ◇ ◇
「ルコ兄!」
ハッチの内側から、
フォティの声が裂ける。
だがルコールは振り向かない。
照準線が走る。
砲塔の魔導光が収束する。
撃つ気だ。
◇ ◇ ◇
ノーグレイブの機首が急激に落ちた。
断崖から離脱し、
雲の縁を舐めるように低空へ。
バルドは操縦桿を倒し込む。
魔導出力式エンジンが唸る。
推進圧が瞬間的に跳ね上がる。
従来のレシプロでは出せなかった“踏み込み”。
機体が垂直に近い角度で引き起こされ、
要塞外周を横切る。
◇ ◇ ◇
雲の裏側。
黒い影が三つ、浮かび上がった。
増援防衛艦。
砲口が一斉に閃く。
◇ ◇ ◇
第一射。
赤光の束が空を薙ぐ。
ノーグレイブは横滑りするように機体をずらす。
単純な回避ではない。
推進と同時に機体を“滑らせる”。
魔導出力式は衝撃を流す構造。
その反動利用。
推進圧を横方向へ逃がし、
弾道を紙一重で外す。
◇ ◇ ◇
第二射。
今度は上下挟撃。
バルドは迷わない。
機首を真下に落とす。
急降下。
空気が唸る。
機体外殻が震える。
高度を削り、
直前で掌舵を引き上げる。
縦旋回。
防衛艦の腹を掠める位置へ滑り込む。
◇ ◇ ◇
オズマが計器を睨む。
「追尾角、甘い。右上方死角」
バルドは言葉より先に動く。
機体が急激に跳ねる。
防衛艦の砲撃が、背後で炸裂。
衝撃波が尾を叩く。
だが魔導出力式は振動を循環させる。
爆ぜない。
◇ ◇ ◇
一方。
ルコールは砲塔の射線を縫う。
第一射が背後を裂く。
掌底噴射、左腕。
急旋回。
砲撃が空を削る。
距離を詰める。
砲塔基部。
装甲の継ぎ目。
そこが薄い。
◇ ◇ ◇
マグナ・パルス、圧縮。
拳が光る。
推進と同時に撃ち込む。
掌底砲、近接衝撃波。
外殻が内側から弾ける。
砲塔一基、沈黙。
◇ ◇ ◇
だが要塞は広い。
隣接砲座が同時旋回。
複数射線。
空が赤く染まる。
ルコールは推進を切らない。
掌噴射、右。
背面ノズル、瞬間噴射。
軸をずらす。
砲撃が擦過する。
クロウギア外装が焼ける。
だが止まらない。
◇ ◇ ◇
ノーグレイブは三隻の防衛艦の間へ滑り込んでいた。
速度差が異常だ。
既存艦の三倍。
旋回半径が違う。
追いつけない。
防衛艦の一隻が過剰旋回で姿勢を崩す。
その瞬間。
ノーグレイブが機首を返す。
固定魔導砲、短射。
腹部装甲に命中。
火花。
爆散。
◇ ◇ ◇
残り二隻。
今度は距離を取る。
遠距離砲撃。
弾幕。
空が裂ける。
ノーグレイブは縦に跳ぶ。
上昇。
即反転。
急降下。
弾道を“踏み越える”。
◇ ◇ ◇
ルコールは第二砲塔へ取り付く。
掌を装甲へ叩きつける。
振動伝播。
内部機構が破断。
砲身が垂れる。
◇ ◇ ◇
要塞中央部。
塔状中枢が淡く発光する。
主砲基部がゆっくりと回転を始める。
巨大。
先ほどの砲塔とは次元が違う。
◇ ◇ ◇
ノーグレイブが高度を上げる。
増援艦が再編。
挟撃体制。
空が狭い。
◇ ◇ ◇
フォティはハッチ縁を掴み、
目を離せない。
空戦の理屈は分からない。
だが分かる。
あれは“生き延びるための飛び方”だ。
◇ ◇ ◇
ルコールは主砲方向を見る。
距離。
射角。
風圧。
まだ入れない。
外周を削る。
侵入はその後だ。
◇ ◇ ◇
ノーグレイブが急旋回。
雲を裂く。
増援艦の射線を強引に引き受け、
ルコールから引き離す。
空と外殻の間。
そこが戦場。
◇ ◇ ◇
砲塔、さらに一基沈黙。
だが主砲の光は強まる。
要塞が目を覚ましつつある。
◇ ◇ ◇
空はもう、
逃げ場ではない。
ここは戦域だ。
(第94話 了)
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