【第93話 空に浮かぶ街】
雲を抜けた瞬間、
視界が開けた。
そして――
全員の呼吸が止まった。
◇ ◇ ◇
そこにあったのは、
“艦”ではなかった。
幾層にも重なる外殻。
段状に広がる甲板。
空中に張り巡らされた導管と砲座。
中心に聳え立つ塔状の中枢構造。
巨大。
だがその言葉では、
まるで足りない。
◇ ◇ ◇
「……なんだ、あれ」
フォティの声が、
かすれる。
城でもない。
島でもない。
空に浮かぶ――
“街”だ。
◇ ◇ ◇
オズマが静かに観測する。
「外周装甲の厚み、浮遊核の配置数、
砲座の密度……」
一拍。
「通常の空母規模を明確に上回る」
視線を細める。
「浮遊要塞級だ」
◇ ◇ ◇
バルドは操縦桿を握ったまま、
低く笑った。
「どう考えてもメインディッシュだぜ」
遊撃艦群は外周に留まり、
今は距離を取っている。
つまり――
あれが本体。
◇ ◇ ◇
ノーグレイブは、
速度を保ったまま直進している。
だが誰も、
軽口を叩かない。
近づくほど、
その“影”が空を覆っていくからだ。
◇ ◇ ◇
「突入は想定していた」
バルドが言う。
「だが……」
一拍。
「正面突破で抜けられる保証はねぇな」
◇ ◇ ◇
フォティは、
無意識に息を呑む。
あれは、
ただ大きいのではない。
“空を占領している”。
空の一部が、
敵になっている。
◇ ◇ ◇
ルコールは、
静かに動き出していた。
クロウギアを装着。
掌底砲の導線確認。
マグナ・パルス圧縮値の調整。
外套を整える。
視線はすでに、
要塞外殻の接合部を測っている。
◇ ◇ ◇
「単身で行く気か」
オズマが問う。
「先に入る」
それだけ。
◇ ◇ ◇
フォティの胸が跳ねる。
「一人で……?」
◇ ◇ ◇
ルコールは振り向かない。
「中を止める」
一拍。
「道を作る」
◇ ◇ ◇
バルドが低く笑う。
「空戦は俺が引き受ける」
操縦桿を握る手に力が入る。
「棺桶じゃねぇところ、
見せてやる」
◇ ◇ ◇
要塞の影が、
機体を飲み込む。
その規模が、
圧迫感として迫る。
甲板の上には、
小型艦が豆粒のように並んでいる。
それだけで、
異常な大きさが分かる。
◇ ◇ ◇
「……あんなものが、
空母……?」
フォティが呟く。
自分は詳しくない。
だが分かる。
あれは“船”じゃない。
空に浮いた、
別の世界だ。
◇ ◇ ◇
ノーグレイブが高度を微調整する。
真正面から突っ込むか。
外周を回るか。
選択の時間は短い。
◇ ◇ ◇
ルコールが、
ハッチへ向かう。
外気圧警告灯が赤く点滅する。
「開けろ」
短い命令。
◇ ◇ ◇
ハッチが解放される。
轟音。
空気の奔流。
風が、船内へ流れ込む。
◇ ◇ ◇
フォティは、
ルコールの背中を見る。
巨大要塞を前にしても、
迷いがない。
◇ ◇ ◇
オズマは言う。
「生存確率は高くない」
「承知している」
即答。
◇ ◇ ◇
ルコールは一瞬だけ振り返る。
視線がフォティを捉える。
何も言わない。
だが――
任せろ、と。
追って来い、と。
両方が含まれている。
◇ ◇ ◇
ノーグレイブは、
要塞外縁へ接近する。
巨大な壁面。
重厚な装甲。
都市のような広がり。
◇ ◇ ◇
フォティの鼓動が速まる。
怖い。
だが、それ以上に――
行きたい。
◇ ◇ ◇
ルコールが、
一歩踏み出す。
風が唸る。
空が裂ける。
浮遊要塞が、
目前に迫る。
◇ ◇ ◇
ここから先は、
空ではない。
敵の領域だ。
(第93話 了)
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