【第92話 歓迎の砲火】
スカイハウル・ノーグレイブは、
推定空域へ向けて高度を上げていた。
空は、静かではない。
遠方。
巨大な積乱雲が、空を飲み込むようにそびえている。
白ではない。
灰でもない。
――濃い。
◇ ◇ ◇
「距離、あと三刻」
オズマが静かに言う。
その目は、雲ではなく“周辺”を見ていた。
「本体はあの中だろうな」
バルドが操縦桿を軽く揺らす。
「隠す気満々だ」
◇ ◇ ◇
ルコールは黙って前方を見据えている。
「……静かすぎる」
低い声。
「歓迎は、静かに来る」
◇ ◇ ◇
次の瞬間だった。
雲の縁が、わずかに揺らぐ。
「来る!」
オズマの声。
◇ ◇ ◇
閃光。
雲の中から、
砲撃が走った。
「右舷上方、三度! 速度落とすな!」
バルドが即座に舵を切る。
ノーグレイブが横滑りする。
砲撃は、後方で爆ぜた。
◇ ◇ ◇
「二射目!」
オズマの声が冷静に続く。
「散開型だ!」
◇ ◇ ◇
今度は四発。
拡散軌道。
一発は船体を掠める。
「……読んでいるな」
ルコールが言う。
「なら読ませるな!」
バルドが笑う。
推力を一瞬絞り、
次の瞬間、踏み込む。
魔導炉が唸る。
ノーグレイブは、
空気を裂くように加速した。
◇ ◇ ◇
「速ぇ……」
フォティが思わず漏らす。
数値の意味は分からない。
だが、身体が理解している。
空気の抵抗が、
置いていかれている。
◇ ◇ ◇
「三射目は来る」
オズマが言う。
「敵は確認射撃をしているだけだ」
「置き去りにできるか?」
ルコール。
「できる」
バルドは断言した。
「だが、二射目までは躱す必要がある」
一拍。
「三射目は、もう当たらねぇ」
◇ ◇ ◇
再び閃光。
今度は精度が高い。
「左!」
オズマ。
バルドが機体を傾ける。
ノーグレイブは、
まるで“滑る”ように軌道を変えた。
◇ ◇ ◇
爆風が、尾を引く。
だが届かない。
◇ ◇ ◇
「出力、安定しています!」
フォティが叫ぶ。
まだ、操縦はできない。
だが、船の鼓動は読める。
◇ ◇ ◇
「歓迎されているようだな」
ルコールが低く言う。
視線は雲の奥。
◇ ◇ ◇
「一掃するか?」
その声に、わずかな殺気が混じる。
◇ ◇ ◇
バルドは笑った。
「まだ分からねぇ」
一拍。
「あれがメインディッシュかどうかな」
◇ ◇ ◇
雲の奥から、
小型遊撃艦が姿を現す。
黒い船体。
細身の機動型。
明らかに“迎撃”。
◇ ◇ ◇
「棺桶じゃねぇところを見せてやるさ」
バルドが操縦桿を握り直す。
「ノーグレイブだ」
魔導炉が吼える。
◇ ◇ ◇
ノーグレイブは、
さらに加速した。
速度差が開く。
遊撃艦が追う。
だが――追いつけない。
◇ ◇ ◇
「速度差、拡大しています」
オズマが冷静に告げる。
「奴らの推力では、ここまでだ」
◇ ◇ ◇
フォティは、
前方の雲を見た。
巨大な積乱雲。
あの奥にある。
セナ。
空母。
教団。
◇ ◇ ◇
「……突っ切るぞ」
バルドが言う。
「嵐の中へ」
◇ ◇ ◇
ノーグレイブは、
雷雲の縁へ突入する。
視界が白く染まる。
砲撃は、もう届かない。
◇ ◇ ◇
「歓迎は終わりか?」
ルコールが言う。
「いや」
オズマが静かに答える。
「前菜だ」
◇ ◇ ◇
雷鳴が轟く。
巨大な雲が、
彼らを飲み込んだ。
その奥に――
“本体”がある。
(第92話 了)
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