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【第9話 崩れる光】

この話を読んでいただければこの小説の輪郭が見えてくると思います。

是非ともお付き合いください。

※2026/01/12 イラストを新規で追加、更新しました

【第9話 崩れる光】


 ――鐘の音が鳴った。


 穏やかな朝だった。

 けれど空はゆっくりと赤く染まり、孤児院の窓から見える森の向こうで黒煙が立ちのぼる。


「……ルコールさん?」


 セナは扉を押し開けた。

 焦げた匂いが風に乗り、遠くから怒号と悲鳴が聞こえる。

 教団だ――そう直感した瞬間、彼女は子どもたちを集めた。


「みんな、地下へ! 急いで!」


 小さな手を引き、階段を駆け下りる。

 天井が揺れ、砂が降る。

 ――外で何かが爆ぜた。


 セナの耳に、フォティの声が届く。


「……セナ、なにが……?」


 フォティは部屋の隅で立ちすくんでいた。

 まだ目が見えない。

 恐怖と音だけの世界に、闇が広がっている。


「大丈夫。いい? こっちに来て。」


 セナは彼の手を握り、力いっぱい抱きしめる。

 その体は小さく、震えていた。


「ここから出ちゃだめよ。何があっても。」


挿絵(By みてみん)


 フォティを押し込み、鉄の蓋を閉じた。

 重い音とともに、暗闇が落ちる。


「逃げて……フォティ!」

 最後に届いたのは、泣きそうな声。


 ――そして、音が途絶えた。




 静寂。

 フォティの世界には音も光もない。

 けれど、その暗闇の中で――確かに“何か”を感じた。


 外で、セナの叫び。

 遠くで、何かが引きずられる音。

 胸が裂けるような焦りがこみ上げる。


「セナ……?」


 その名を呼んだ瞬間、胸の奥が弾けた。

 何かが“見えた”。


 闇の中に、一点の光。

 それは線となり、粒子となって広がっていく。

 世界の輪郭が、初めて浮かび上がった。


 壁。床。空気。

 すべてが光の粒でできている。


 フォティは息を呑んだ。


「……これが……“見る”って……こと……?」


 震える声が漏れる。

 涙が頬を伝い、その滴さえ光に溶けた。


 そして、彼は“外”にあるひとつの光を見た。

 ――セナだ。

 彼女の残した温もりが、光の糸となって外へ伸びていた。


 追わなきゃ。


「セナ!」


 立ち上がった瞬間、足元の粒子が反応した。

 光が爆ぜ、壁の線が溶けていく。

 鉄の構造が粒子に分解され、通路が開く。


 まばゆい白が一気に押し寄せた。




 ――外。


 世界は赤く、熱に歪んでいた。

 フォティの瞳が初めて空を映す。

 燃える屋根、崩れた街、泣き叫ぶ人。

 そして、遠くへ連れ去られるセナの姿。


「返せ……!」


 目が焼けるほどの光が溢れる。

 フォティの中で、怒りと悲しみが混ざり合い、

 光が制御を失って暴走した。


 閃光。

 音が消え、風が止み、

 全てが光に呑まれた。


 焼けた空気の中で、フォティはただ叫んだ。


挿絵(By みてみん)


「セナぁあああ――!!!」




 ――沈黙。


 光が引いた時、世界は白い灰に変わっていた。

 建物はなく、地面は溶け、空は煙に覆われる。


 中心にひとり、倒れ伏す少年。

 フォティ。


 彼の瞳は今も開かれていた。

 見える世界の中で、涙の粒が静かに光を宿していた。


(第9話 了)

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く、曇らせ………  最悪のタイミングで目が見えるようになったという特大の皮肉……
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