【第88話 飛ぶ男の流儀】
【第88話 飛ぶ男の流儀】
スカイハウルの格納区画に、
乾いた金属音が響いていた。
工具が擦れ、
留め具が噛み合い、
外装板が正しい位置へ戻されていく。
◇ ◇ ◇
操縦席の下。
配線の影に潜り込みながら、
バルドはふと顔を上げた。
「……で」
一拍。
「坊主と王子は?」
◇ ◇ ◇
ルコールが、即答する。
「外だ」
◇ ◇ ◇
格納区画の外から、
風を裂く音と、
鈍い着地音が重なって聞こえた。
続いて――
「もう一回行くぞ、フォティ!」
オズマの声。
「……はい!」
少し息の上がった返事。
◇ ◇ ◇
「はは」
バルドは、工具を回したまま笑った。
「元気だな。
空に喧嘩売ってる音がする」
◇ ◇ ◇
「止めなくていいのか」
ルコールが問う。
「止めたら折れる」
即答だった。
「折れる前にぶつかる方が、
あいつらには合ってる」
◇ ◇ ◇
そう言って、
バルドは操縦席に腰掛け直す。
◇ ◇ ◇
その時。
ミラが、
一歩遅れて格納区画に入ってきた。
足取りは軽くない。
調査の疲労が、
まだ体に残っている。
◇ ◇ ◇
それを、
バルドは一瞬で見抜いた。
「……お嬢ちゃん」
「はい」
「無茶したな」
◇ ◇ ◇
「……少しだけ」
ミラは、正直に答えた。
◇ ◇ ◇
「“少し”はな」
バルドは鼻で笑う。
「後から全部まとめて来る」
◇ ◇ ◇
ルコールが視線を向ける。
「問題はない」
「あるさ」
バルドは言い切った。
「“疲れ”じゃねぇ」
◇ ◇ ◇
レンチを置き、
二人を見る。
ルコールとミラ。
その距離。
近すぎず、
離れすぎず。
◇ ◇ ◇
「……そうきたか」
バルドが小さく呟いた。
「この朴念仁の、
何がいいんだか」
◇ ◇ ◇
「?」
ルコールは眉をひそめたが、
深くは考えなかった。
◇ ◇ ◇
ミラは、
ほんの一瞬だけ視線を逸らす。
◇ ◇ ◇
「まあいい」
バルドは話を切り替える。
「操縦は俺がやる」
◇ ◇ ◇
異論は出ない。
最初から、
そうなる空気だった。
◇ ◇ ◇
「この船はな」
外装を軽く叩く。
「腕がいいだけじゃ、
言うことを聞かねぇ」
「壊れ方を知ってる奴向けだ」
◇ ◇ ◇
「だから、
俺が行く」
それだけだった。
◇ ◇ ◇
外から、
再び風を裂く音。
そして――
「くそっ……!」
フォティの悔しそうな声。
◇ ◇ ◇
「……元気で結構」
バルドは肩をすくめる。
「空に嫌われてない証拠だ」
◇ ◇ ◇
ミラは、
無意識にルコールの背中を見る。
広い背中。
動じない姿勢。
◇ ◇ ◇
(……やれやれ)
バルドは心の中で息を吐く。
(守る側は鈍感で、
守られる側は厄介だ)
◇ ◇ ◇
「準備は続けるぞ」
バルドは再び手を動かし始めた。
「空はな、
嘘をつかねぇ」
◇ ◇ ◇
「覚悟がなきゃ落ちる。
迷ってりゃ折れる」
一拍。
「だが――」
◇ ◇ ◇
「腹を括ってりゃ、
案外、応えてくれる」
◇ ◇ ◇
格納区画に、
金属音が戻ってくる。
それは、
出発前の音だ。
◇ ◇ ◇
まだ飛ばない。
だが、
全員が分かっていた。
――次は、空だ。
(第88話 了)
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