【第81話 空へ行くための準備】
ギルド地下の作業区画は、久しぶりに騒がしかった。
鉄の匂い。
油の匂い。
そして――
空を目指す話題特有の、張り詰めた気配。
◇ ◇ ◇
「結論から言うぞ」
腕を組んだバルドが、はっきりと言った。
「今のスカイハウルじゃ、
“空母”には近づけねぇ」
誰も、口を挟まなかった。
「装甲が足りない。
推力も足りない。
操縦系も、想定が甘い」
一拍。
「何より――」
視線が、全員をなぞる。
「“町一つ分の質量が空にある”なんて前提で、
作られてねぇ」
◇ ◇ ◇
「対飛行船戦までは、想定していた」
ロウグが資料をめくりながら言う。
「軍用。
あるいは大型輸送船」
「だが、空中要塞となると話が別だ」
バルドが続ける。
「撃ち合いにならねぇ。
耐久で潰される」
◇ ◇ ◇
「……つまり」
フォティが慎重に言葉を選ぶ。
「正面から戦う想定自体が、間違いなんですね」
「そうだ」
バルドは即答した。
「だから改修する。
“戦う船”じゃねぇ」
一拍。
「“辿り着く船”にする」
◇ ◇ ◇
ルコールが、低く問う。
「具体的には?」
「装甲は増やす」
バルドは指を立てる。
「だが、限界がある。
推力も、燃費もな」
次に、別の指。
「だから耐える方向じゃねぇ。
**抜ける**」
◇ ◇ ◇
「抜ける?」
「空域そのものを読む」
バルドは、作業台に地図を広げる。
「隠れてるんじゃねぇ。
誤魔化してる」
ロウグが、ゆっくりと頷いた。
「……天候か」
「その可能性が高い」
バルドは目を細める。
「異常な気流。
不自然な雷雲。
航路として成立しねぇ空」
◇ ◇ ◇
「だが、教団は行き来している」
フォティが言う。
「ラドクリフも、確かに来ていた」
「だからだ」
バルドは、机を叩いた。
「“通れる道”はある。
ただし、地図に載らねぇ」
◇ ◇ ◇
沈黙の中で、オズマが口を開く。
「……金の話だが」
全員がそちらを見る。
「改修費用は、別荘の金庫から出す」
淡々と。
「父の個人資産だ。
国の予算じゃない」
◇ ◇ ◇
「覚悟はいいのか」
ロウグが問う。
「それは、
もう“戻れない金”だぞ」
「分かっている」
オズマは目を逸らさない。
「だが、使うなら今だ」
一拍。
「剣を振れない分、
俺は“道を作る”」
◇ ◇ ◇
「……重いな」
バルドが苦笑した。
「預かる側としては」
「逃げるつもりはない」
オズマは短く言う。
◇ ◇ ◇
「素材は?」
ルコールが問う。
「最低限でいい」
バルドは首を振る。
「無理に集める必要はねぇ」
その言葉に、
フォティが少し驚いた顔をする。
「討伐もしない。
採取もしない」
一拍。
「今回は――調査だ」
◇ ◇ ◇
「空域調査」
ロウグが、低く言葉をなぞる。
「異常気象。
気流。
航路外の空」
「それを、俺たちの足で確かめる」
バルドが頷く。
「スカイハウルは、
そのために直す」
◇ ◇ ◇
ミラが、小さく息を吸った。
「……見るだけ?」
「そうだ」
バルドは、はっきり言う。
「今はな」
◇ ◇ ◇
ルコールが、静かに言った。
「それで十分だ」
「行き先が分からなければ、
剣を振る意味もない」
◇ ◇ ◇
空へ行くために。
要塞を砕くためではなく――
**まず、“見つける”ために。**
彼らは動き出す。
次は、
戦いではない。
**空を読むための調査**だ。
(第81話 了)
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