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【第8話 揺らぐ日常】

初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。

月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。

※2026/01/12 イラストを更新しました

【第8話 揺らぐ日常】



 ――朝の鐘が鳴った。


 孤児院リーベルハイムの屋根裏部屋。

 小さな窓から差し込む光が、淡く揺れている。


 フォティはその光を指先でなぞっていた。

 目はまだ見えない。

 けれど、光の流れが“わかる”ようになっていた。


「……ここに、いる。」


 彼の掌に、小さな粒子が集まっていく。

 呼吸とともに、温かい光が生まれた。

 指先を離すと、それはふわりと宙に舞い、

 窓の外へと溶けていった。


「……ねぇ、フォティ。今日の光、きれいだよ。」


 背後からセナの声がした。

 いつの間にか立っていた彼女が、微笑んでいる気配がする。


「本当に、見えてなくても感じるんだね。」


「うん。見えないけど……光が、笑ってるのがわかる。」


 フォティの言葉に、セナは静かに頷いた。


「あなたの光、前より優しくなったね。」


「この光、もう誰も傷つけないと思う。」


 そう言うフォティの声は、かすかに震えていた。

 セナは彼の頭を撫でながら微笑む。


「その優しさがあれば、大丈夫。

 ……きっと、ルコールさんも安心するよ。」


 その名を聞いて、フォティは顔を上げた。


「ルコールさん、また出かけたんですか?」


「うん。朝早くにギルドへ行ったみたい。」


「……危ないの?」


 セナは少しだけ間を置き、首を横に振った。


「危なくても、あの人は戻ってくる。

 “死にに行くんじゃねぇ、生き延びに行くんだ”って笑ってたもの。」


 その言葉に、フォティの口元が少しだけ緩んだ。


「……ルコールさんらしいですね。」


「ほんと、変な人。」


 二人の笑い声が、小さな部屋に響く。

 その音が、まだ“普通の朝”を保っていた。




 ――同じ頃。


 街の外れ。

 ルコールは修理屋の裏通りを歩いていた。

 バルドの空挺を預かる整備工房だ。


 扉を開けると、機械油の匂いが鼻をつく。


「よう。朝から来るとは珍しいな。」


 奥からバルドが顔を出した。

 無精髭、首にはゴーグル。

 手にはまだ油のついたレンチを持っている。


「早ぇな、バルド。徹夜か?」


「寝てたらこの機体が落ちちまうだろ。」


 バルドは笑いながらグラスを差し出す。


「で、どうした。次はどんな地獄だ?」


「……北部の現場を見た。人間じゃねぇ兵がいた。

 胸に、あの紋章をつけてた。」


「……あの“白金の瞳”か。」


 バルドの表情が一変する。


「お前、本気で教団に喧嘩売る気か?」


「もう、売っちまった後だ。」


「……はぁ。だから言ったろ。お前は死ぬには惜しい男だって。」


 バルドはため息をつきながら、古びた紙束を取り出した。

 地図の一部が赤く印をつけられている。


「ここだ。教団の連絡網が通ってる場所。

 “資材運搬”って名目だが、実際は人体の搬送ルートだ。」


 ルコールはその地図を黙って見つめた。


「……リーベルハイムの近くじゃねぇか。」


「ああ。孤児院のあるあたりだ。」


 空気が重くなる。

 ルコールの瞳が細まり、銃剣アッシュフォールのグリップに触れた。


「……嫌な風が吹いてやがる。」


 バルドは煙草を取り出し、火を点けた。

 それから、カウンターの下を探って小さな包みを取り出す。


「そういや、前に頼まれてたもん。やっと仕入れたぜ。」


挿絵(By みてみん)


 ルコールが受け取る。

 包みの中には、淡い青の水晶がはめ込まれた小さなペンダント。


「……覚えてたか。」


「当たり前だ。俺の客リストは命より正確だ。

 “孤児院の世話役に似合うもんを”って言ってたろ?

 ……まさか、本気で惚れてんのか?」


「バカ言え。」


 ルコールは包みを懐に入れ、短く答えた。


「似合うと思っただけだ。」


 バルドは苦笑し、煙を吐く。


「ま、そういうことにしとくか。

 行ってやれ。嵐が来る前にな。」


「……まるで誰かが狙ってるみてぇな言い方だな。」


「お前の勘よりは当たる。」


 バルドの言葉に、ルコールは無言で踵を返した。




 ――孤児院の前。


 木漏れ日の差す庭。

 セナが洗濯物を干している。


「ルコールさん?」


「……あぁ。通りがかっただけだ。」


 彼はポケットから小さな箱を取り出した。

 銀の鎖に、淡い青の水晶が光っている。


「これを。」


「え……わたしに?」


「お前には、こういうのが似合うと思っただけだ。」


 セナは驚いたように目を瞬かせ、それから柔らかく笑った。

 そして、そのペンダントをそっと首にかけた。


挿絵(By みてみん)


「……ありがとうございます。

 大切にしますね。」


 ルコールは小さくうなずき、踵を返した。


「無くすなよ。」


「はい。」


 彼が去る背中を、セナはしばらく見送っていた。

 ペンダントが光を受け、きらりと揺れた。

 その光が――まるで何かを**予感しているかのように**瞬いた。




 ――夕暮れ。


 セナはフォティのベッドのそばで、子どもたちに絵本を読んでいた。

 笑い声と光が混じり合う穏やかな時間。


 そのとき、外で“風”が鳴った。


 遠くで、鐘の音が鳴る。

 まだ夕陽は沈んでいないのに。


 セナは窓の外を見る。

 オレンジ色の空の向こうで、黒い雲がゆっくりと流れていた。


 その風の音に、

 フォティの瞳がかすかに震えた。


 ――嵐は、もう始まっていた。



(第8話 了)

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― 新着の感想 ―
「お前、本気で教団に喧嘩売る気か?」 「もう、売っちまった後だ。」 ↑こういう洋画みたいな掛け合いがお気に入りなのだよ。
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