【第78話 評価する者】
ギルドに戻ったのは、夜だった。
王都の灯りが外に滲む時間帯。
昼の喧騒は引き、代わりに静けさが街を覆っている。
◇ ◇ ◇
「……で?」
部屋に入るなり、
バルドが床に置かれた包みの山を見下ろした。
無言。
一拍。
二拍。
「――これは、何だ」
低い声。
フォティが一歩前に出る。
「服です」
「見りゃ分かる」
「全部、着替え用です」
「それも分かる」
バルドは腕を組んだ。
「……量の話だ」
◇ ◇ ◇
包みは明らかに多い。
一人分どころではない。
ミラは、壁際で小さく肩をすくめている。
怒られると思っている顔だった。
オズマも、言葉を挟まない。
◇ ◇ ◇
バルドは、しゃがみ込んだ。
一つ、包みを解く。
二つ目。
三つ目。
布の質。
色。
仕立て。
指先で確かめるように、
黙々と中身を見ていく。
◇ ◇ ◇
「……なるほどな」
立ち上がる。
その顔には――
怒りはなかった。
◇ ◇ ◇
「よくやった」
一言。
ミラが、きょとんとする。
フォティも、瞬きをした。
「……怒らないんですか?」
フォティが思わず聞く。
「なんでだ?」
バルドは、あっさり言った。
◇ ◇ ◇
「こういう状況だ。
表の店は、いずれ閉まる」
「裏も、同じだ。
“売れなくなる”んじゃねぇ」
一拍。
「“売れない”ようにされる」
◇ ◇ ◇
オズマが、静かに頷く。
「……買えるうちに、買え。
という判断か」
「そういうこった」
バルドは、にやりと笑った。
「金は、道具だ。
使えない状況で抱えてても意味はねぇ」
◇ ◇ ◇
「それに」
包みを一つ、ひっくり返す。
布が、床に落ちた。
◇ ◇ ◇
「…………」
一瞬の沈黙。
それは――
明らかに“旅装”ではなかった。
◇ ◇ ◇
「……え?」
ミラが声を漏らす。
フォティも、固まった。
淡い色。
柔らかい布。
用途がはっきりしすぎている服。
◇ ◇ ◇
バルドは、
それを拾い上げ、眺めてから――
ニヤッと笑った。
◇ ◇ ◇
「ははーん」
視線が、
フォティとミラを行き来する。
「坊主も、立派に成長したなぁ」
◇ ◇ ◇
「ち、違います!」
フォティが即座に否定する。
「必要だと思ったからで――」
「分かってる分かってる」
バルドは軽く手を振った。
「必要だよなぁ。
うん」
ミラは、
顔が一気に赤くなり、
両手で外套の端を掴んだ。
「……っ」
言葉にならない。
◇ ◇ ◇
「冗談だ冗談」
バルドは肩をすくめる。
「隠れるってのはな、
“普通に生きてる風”を装うことでもある」
「その点、
選択肢を増やしたのは正解だ」
◇ ◇ ◇
フォティは、
少しだけ安堵の息を吐いた。
ミラはまだ、
視線を合わせられない。
◇ ◇ ◇
「……というわけで」
バルドは、包みを指差す。
「これは全部、合格だ」
「金の使い方としても、
判断としてもな」
◇ ◇ ◇
オズマが、静かに言う。
「……感謝する。
俺たちでは、そこまで考え切れなかった」
「そりゃそうだ」
バルドは笑った。
「お前らは、
戦う側だからな」
◇ ◇ ◇
その夜。
部屋の空気は、
少しだけ軽くなった。
地獄は終わっていない。
何も解決していない。
それでも――
**選択は、間違っていなかった。**
そう言ってもらえたことが、
何よりの救いだった。
(第78話 了)
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