【第73話 王子、剣を取る】
第3章…完結!
次回、第4章!のはず!!
【第73話 王子、剣を取る】
朝が来た。
だが、王都にとってそれは
“始まり”ではなかった。
◇ ◇ ◇
鐘が鳴る。
それも、祝福の音ではない。
教会の前で。
広場で。
通りという通りで――
「王が……国王陛下が崩御された!」
「王子オズマが、国王を討ったという!」
凶報は、事実よりも早く、
意味を伴って王都を覆った。
真偽など、もはやどうでもいい。
“そういうことになった”。
それだけで、国は動く。
◇ ◇ ◇
ギルド本部。
ロウグ・ヴェンターの執務室。
分厚い扉の向こうで、
外の喧騒は遮断されていた。
室内にいるのは六人。
ロウグ。
バルド。
ルコール。
フォティ。
ミラ。
そして――オズマ。
誰も、すぐには口を開かなかった。
机の上には、
簡単な朝食と、冷めた茶。
誰も、手を伸ばしていない。
「……街中、もう回ってきた」
ロウグが低く言う。
「王は死に、王子は姿を消した」
「それで話は“終わり”だ」
オズマは俯いたまま、答えない。
「俺は……」
ようやく、声を出す。
「俺は、父を殺していない」
ただ、それだけ。
バルドは椅子にもたれ、天井を見上げた。
「だろうな」
「だが、世間は信じねぇ」
淡々と続ける。
「王が死んで」
「王子がいない」
一拍。
「それだけで、教団には十分だ」
ロウグが頷いた。
「今頃、騎士団も官僚も、
“教団の助言”を仰いでいる」
吐き捨てるように言う。
「名目は秩序維持」
「実態は、完全掌握だ」
ミラが、静かにフォティの袖を掴んだ。
震えてはいない。
だが、指先に力が入っている。
「……あの子」
小さな声。
「変わらなかった子は……?」
「ギルドで預かってる」
ロウグが即答した。
「正式に保護対象だ」
「教団には渡さない」
ミラは、それを聞いて――
ほんの一瞬だけ、目を伏せた。
それから、頷く。
フォティが一歩前に出た。
「……俺たちは行く」
オズマを見る。
「教団と、正面からやる」
「逃げじゃない」
ミラも、前に出る。
その瞳には、
迷いよりも――怒りがあった。
「わたしも行く」
はっきりと言った。
「もう……祈るだけは、いや」
ルコールが静かに言う。
「国に残れば、お前は使われる」
「出れば、敵になる」
オズマの視線が揺れる。
「……俺は」
拳を、強く握る。
「あそこで、剣を取れなかった」
「誰も守れなかった」
声が、低くなる。
「王子としても、人としても……」
「それでいい」
遮ったのは、ロウグだった。
「お前は“剣を取れなかった王子”だ」
一拍。
「だが、ここで取るなら話は別だ」
ロウグは、真っ直ぐに言う。
「国を守る剣じゃない」
「王家の剣でもない」
机を指で叩く。
「“教団を斬るための剣”だ」
沈黙。
そして――
オズマは、立ち上がった。
「……俺は、国を出る」
はっきりと。
「王子としてではなく」
「一人の人間として、戦う」
ルコールが短く頷く。
「それでいい」
バルドが、いつもの調子で笑った。
「ようこそ、冒険者側へ」
「席は……まぁ、詰めれば空く」
「詰めるな」
ロウグが即座に突っ込む。
だが、その顔は――少しだけ、笑っていた。
「その前にだ」
ロウグは腕を組む。
「俺の酒の仇を取る」
「話はそれからだ」
一瞬の沈黙。
そして。
「……そこかよ!」
バルドが叫ぶ。
「秘蔵だぞ」
ロウグは真顔だった。
「教団が踏み荒らした」
「許す理由がない」
オズマは、かすかに笑った。
本当に、わずかに。
王都では、
教団の旗が翻り始めている。
王は死に、
王子は消えた。
そして――
国は、静かに支配された。
だがこの部屋で、
一人の王子が剣を取った。
(第73話 了)
よろしければ、評価と気に入っていただければブックマークをお願いします。
執筆の励みになります。




