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【第72話 影が落ちた夜】

初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。

月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。


【第72話 影が落ちた夜】


 夜が、終わらなかった。


 王城の真下。

 人工の空も、鐘も、時を告げるものは存在しない。


 ここでは、

 どれほど時間が流れたのか分からない。

 ただ――

 血と悲鳴と、壊れた肉体の数だけが積み上がっていく。


◇ ◇ ◇


 変異した子供たちは、なおも動いていた。


 歪んだ四肢。

 裂けた皮膚。

 異形の牙。


 それでも、

 顔の一部には、まだ“子供だった名残”が残っている。


「……ねぇ」


 潰れた喉から、声が漏れる。


「あそぼ……?」


 それは、

 かつて無邪気だった言葉の残骸だった。


 バルドは歯を食いしばり、拳を振るった。


 叩き潰す。

 迷いはない。


 だが、

 感情だけは殺しきれない。


「……クソが……!」


 子供だったものが、地に崩れ落ちる。


◇ ◇ ◇


 フォティは、

 ミラを庇うように抱え込んだまま、

 その背後に縋りつく“変異しなかった子供”を守っていた。


 一人だけ。


 牙も。

 爪も。

 異形の兆しもない。


 ただ、

 恐怖に震えるだけの子供。


 ――なぜ、この子だけが。


 ミラは、それを見てしまった。


 選ばれなかった子供たち。

 そして、

 理由もなく“残された”一人。


 祈れば救われる。

 正しければ報われる。


 その当たり前が、

 ここでは一切通用しなかった。


「……ちがう……」


 ミラの口から、掠れた声が零れる。


 信じてきたものが、

 内側から、音を立てて壊れていく。


◇ ◇ ◇


 オズマは、剣を握ったまま立ち尽くしていた。


 嫌な予感は、

 ずっと胸の奥にあった。


 だが、

 それを言葉にすることだけは避けてきた。


 ――信じたかった。


 信じなければ、

 ここまで来た意味そのものが崩れてしまうからだ。


 だが。


 空気が、変わった。


 理解するよりも先に、

 “結論”だけが胸に落ちてくる。


 来る。


 声を出す前に、

 それはもう、確信になっていた。


◇ ◇ ◇


 空間が、歪んだ。


 影が、

 床に“染み出す”ように広がる。


 次の瞬間、

 黒い刃が、音もなく伸びた。


 ――ズブリ。


 国王の胸を、正確に貫く。


「……な……に……」


 理解する暇もなく、

 王は膝から崩れ落ちた。


 血が、床に広がる。

 誰も、止められない。


 影の中から、

 “それ”が現れた。


 人の形をしている。

 だが、人ではない。


 感情も、

 怒りも、

 そこには見えなかった。


 ただ、

 王の死を“確認”し――


 次の瞬間、

 影は再び、闇に溶けた。


◇ ◇ ◇


挿絵(By みてみん)


 オズマは、その場から動けなかった。


 声も。

 叫びも。

 問いも。


 すべてが、

 喉の奥で凍りついたまま、形にならない。


 ただ、

 父だったものが倒れている。


 それだけが、

 現実としてそこにあった。


◇ ◇ ◇


 ルコールは、無言で立っていた。


 かつて踏み込んだ保護区。

 かつて見た光景。


 同じで、

 違う。


 だが、

 辿り着く地獄だけは変わらない。


(……またか)


 拳を、強く握る。


 ラドクリフは、去った。

 影は、名も残さず消えた。


 そして――

 空で待つ者たちがいる。


 Se-Na。


 クロウ。


 夜は、まだ終わらない。


 だが、

 この夜が終わったとき――

 世界は、別の顔を見せる。


(第72話 了)

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