【第71話 覚悟の差】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。
【第71話 覚悟の差】
戦いは、音から始まった。
笑い声だ。
甲高く、無邪気で、
本来なら広場にあって何一つおかしくない――
子供の声。
◇ ◇ ◇
「……あそぼ?」
歪んだ声が、近くから聞こえた。
振り向いた先にいたのは、
変異しきれなかった“それ”だった。
身体は異形。
腕は不自然に長く、指は節の数を失っている。
それでも――
顔だけは、子供のままだった。
「おにいちゃんたち、あそぼうよ」
笑っている。
楽しそうに。
その口元から垂れるのは、血とも涎ともつかない液体。
◇ ◇ ◇
「……っ」
オズマの喉が鳴った。
頭では分かっている。
もう、人ではない。
だが、目の前にいるのは――
“さっきまで生きていた子供”だ。
剣を握る手が、震える。
「……下がれ!!」
バルドが怒鳴り、
オズマを強引に引き寄せた。
「見るな!
今のお前が見ていいものじゃねぇ!」
「……あ……」
オズマは、言葉を失った。
怒りはある。
吐き気がするほどの憤りもある。
それでも――
剣を振るう覚悟だけが、どうしても追いつかない。
◇ ◇ ◇
ミラは、動けなかった。
視界の端で、
別の“子供だったもの”が跳ね回る。
「きゃはは」
「つかまえたー」
遊びの延長のように、
異形の腕が振るわれ、
地面が抉れる。
口が、開く。
だが、声は出ない。
祈りの言葉が、浮かばない。
教えられてきた“救済”は、
目の前で音を立てて崩れていく。
世界が、歪む。
◇ ◇ ◇
フォティは、何も言わなかった。
ミラの背後に、
まだ変異していない子供が一人いる。
それだけで、十分だった。
少年は一歩前に出る。
金色の光が、爆ぜた。
「……っ!」
異形の胴体が焼かれ、
悲鳴とも笑いともつかない声が上がる。
「えー? もうおわり?」
倒れながら、
それはそう言った。
フォティは、歯を食いしばる。
これは戦いじゃない。
それでも――
守らなければならない。
◇ ◇ ◇
ルコールは、感情を挟まない。
異形が視界に入った瞬間、
すでに距離は詰め終わっていた。
拳が走る。
骨が砕ける。
顔が潰れる。
それでも、
口だけは動く。
「あれ……?」
次の瞬間、
頭部が原形を留めず消える。
瞬きの間に、
さらに一体。
叫びも、躊躇もない。
「生き残るために、殺す」
それだけが、ルコールを動かしていた。
◇ ◇ ◇
「……やめろ……」
広場の端で、
国王が膝から崩れ落ちた。
「こんな……はずじゃ……」
自分が許可した研究。
自分が黙認した救済。
それが、
子供の顔で笑っている。
「私は……国のために……」
誰も、答えない。
オズマは、
その背中を見つめていた。
「……ふざけるな……」
声が、掠れる。
「ふざけるな……っ!」
怒りはある。
だが、それを剣に変える力はない。
バルドが、前に立つ。
「今はいい」
低い声。
「お前が折れる場所は、ここじゃねぇ」
オズマは、
ただ立ち尽くすことしかできなかった。
戦える者と、
戦えない者。
覚悟の差は、
あまりにも、残酷だった。
(第71話 了)
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