【第70話 地獄の始まり】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。
【第70話 地獄の始まり】
広場には、まだ子供たちがいた。
人工物で作られた大樹の下。
白い石畳の上を走り回り、笑い、声を上げている。
「……普通、だな」
バルドが低く呟く。
「保護区って聞いて、もっと堅苦しい場所を想像してた」
「だからこそだ」
ルコールは視線を逸らさずに答えた。
「油断させるための“日常”だ」
オズマは、何も言えずに広場を見つめていた。
子供たちの笑顔。
無邪気な声。
それが――
自分の国の中で行われている“現実”だという事実が、
じわじわと胸を締め付ける。
◇ ◇ ◇
――乾いた拍手が、静寂を裂いた。
「素晴らしい」
穏やかな声。
影から現れたのは、白衣の男だった。
整えられた身なり。
柔らかな笑み。
「……ラドクリフ」
ルコールの声が、低く沈む。
「久しぶりだね」
ラドクリフは懐かしむように微笑んだ。
「まさか、ここまで辿り着くとは思わなかった」
その隣に、もう一人。
重い外套。
王冠。
「……父上?」
オズマの声が、かすかに震えた。
「どうして……ここに……」
国王は、答えなかった。
いや――
答えられなかった。
◇ ◇ ◇
「諸君」
ラドクリフが、広場全体に向けて穏やかに告げる。
「世界を救済する時間だ」
その言葉に、オズマは反射的に前へ出ようとした。
だが――
声を発する前に、一瞬だけ言葉を失う。
胸の奥を、冷たい感覚が撫でた。
理由は分からない。
それでも――
――来る。
はっきりとした予感が、脳裏をよぎる。
それでも、王子として。
人として。
声を張り上げた。
「……子供たちだぞ!」
叫びは、わずかに遅れた。
「兵でもない!
罪人でもない!」
その言葉が届くより早く――
悲鳴が上がった。
◇ ◇ ◇
肉が歪む。
骨が軋む。
魔力が暴走する。
「っ……!」
フォティが息を呑む。
子供だった“それ”が、
次々と異形へと変貌していく。
「……嘘……」
ミラの声が、かすれる。
「そんな……これは……」
かつて教え込まれた言葉が、頭をよぎる。
――救済。
――浄化。
――神の光。
だが、目の前の光景は、
どれとも噛み合わない。
「……違う……」
ミラの手が、震えた。
「こんなの……祈りじゃない……」
その瞬間、
彼女の中で“何か”が、確かに音を立てて壊れた。
◇ ◇ ◇
人工樹の下。
一人だけ、
変わらずに立ち尽くしている子供がいた。
「……?」
ラドクリフが、興味深そうに目を細める。
「外因接触済み、か」
視線がフォティへ向く。
「やはり、光は“干渉”する」
「人を……人を数で見るな!」
オズマが叫ぶ。
「父上!
これが……あなたの望んだ国なのか!?」
国王の肩が、大きく揺れた。
「わ、私は……」
言葉が続かない。
「国のために……必要だと……」
「必要?」
オズマは、笑ってしまいそうになった。
「そのために、子供を捧げるのか……?」
その声には、怒りよりも深い“絶望”が滲んでいた。
◇ ◇ ◇
「さて」
ラドクリフは踵を返す。
「続きは、空で行おう」
去り際、
ルコールだけを振り返る。
「Se-Na――お姫様はね」
一拍置いて、告げる。
「空で“お友達”と共に待っている」
微笑み。
「クロウと共に、だ」
次の瞬間、
二人の姿は掻き消えた。
残されたのは、
変わり果てた現実と、
祈りを失った静寂。
ミラは、ぎゅっと胸元を押さえた。
「……わたし……」
言葉にならない。
信じていたものが、
確かに、壊れた。
(第70話 了)
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