【第7話 囁く影】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。
※2026/01/11 イラストを更新しました
【第7話 囁く影】
――金属の音が、静寂を叩いた。
白い部屋。
壁も床も天井も、光を拒むような白で覆われている。
並んだガラス槽の中には、歪んだ“人の形”がいくつも沈んでいた。
それらの胸には、白金の紋章。
まるで神に祈るような姿で、眠り続けている。
「……実験体第十九号、稼働停止を確認。」
研究員の報告が淡々と響く。
管を抜かれた身体から、白い液体が滴り落ちた。
「また、壊れたか。」
低い声が返る。
長身の男がガラス槽に手を置いた。
その肌は死人のように青白く、右腕は金属の義肢に置き換えられている。
――ラドクリフ。
世界救済団体《The Salvation Order》の開発主任にして、
“祈りの器”計画の創始者。
「肉体はもつ。だが、心がもたない。
神経の痛覚を切っても、魂は悲鳴を上げるか。」
彼は淡く光る神経管を指先でなぞる。
冷たい光が、瞳の奥を照らした。
「“人の理を機械に組み込む”など、やはり神への冒涜かもしれん。」
「それを言うお前が、一番楽しそうに見えるがな。」
背後から声がした。
黒い軍服を着た男が、壁に背を預けている。
――クロウ。
元軍部の戦略家にして、現在は教団の作戦監督官。
ラドクリフとは旧知の仲であり、
“神を再現する”というこの計画の実行責任者だ。
「楽しい? 違う。これは“確認”だ。
神が人を見捨てたか、人が神を見限ったかをな。」
ラドクリフは淡々と答え、
隣の机に置かれた報告書を指で弾いた。
「北部交易路で、第一世代の機体が破壊された。」
「……誰に?」
「記録では、ルコール=ハンター。」
クロウの目が細められる。
「また、あの男か。
軍を抜けてまで“狩り”を続ける亡霊。」
「彼はまだ知らない。
自分のかつての任務が、我々の計画の礎だったことをな。」
ラドクリフは報告書の隅に貼られた写真を見つめる。
白金の紋章が焼き付いた胸部、そして撃ち抜かれた仮面。
「第一世代は終わりだ。
……次は、“融合”へ移行する。」
「融合?」
クロウが眉を上げる。
「魔物の因子を生体ユニットに直接組み込む。
機械よりも、神に近い存在を――」
「実験体はもう確保してあるのか?」
ラドクリフは微笑む。
それは冷たく、血の通わぬ笑みだった。
「報告によれば、適合指数が異常に高い少女がいる。
“セナ”――孤児院リーベルハイム所属。
治癒能力、魔力回復率、精神安定値。どれも完璧だ。」
「ルコールの庇護下か。」
「その通りだ。」
クロウは軍服の袖を直し、
懐から小型通信端末を取り出す。
「ならば、私が動く。
“救済の使徒”を派遣しよう。」
「過激な手を使うなよ。」
「必要な犠牲だ、ラドクリフ。
救済とは、痛みの上に成り立つ。」
クロウは端末を起動しながら微笑んだ。
その笑みには、戦場でしか生きられなかった人間の狂気が宿っていた。
「世界はまだ、救われたがっている。」
ラドクリフは沈黙したまま、実験槽の一つに視線を移す。
中に沈んだ“新しい器”が、かすかに身じろぎした。
胸の中で、白い光が脈動する。
「……神の心臓、か。」
彼の呟きが、白い部屋の中で反響する。
そしてその声が途絶えるのと同時に、
どこか遠くで――**鐘の音**が鳴った。
それは、光に呑まれる前の“静かな合図”だった。
(第7話 了)




