【第68話 記憶に似た場所】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。
【第68話 記憶に似た場所】
扉の向こうは、静かだった。
広すぎる空間。
天井は高く、柱の配置は整然としている。
壁面に走る導管と、一定間隔で配置された照明。
――保護区だ。
ルコールは、そう判断した。
だが。
「……懐かしい、って言葉は使いたくねぇな」
誰に向けたとも分からない呟きが、口をついて出た。
胸の奥が、ひどく重い。
理由は分かっている。
ここで覚えているのは、風景じゃない。
“役割”だ。
人を管理するための空間。
守るために用意されたように見せかけて、
選別するために作られた場所。
その感触が、身体の奥に残っている。
「ルコ兄……?」
フォティが、様子をうかがうように声をかけた。
「大丈夫だ」
即答だった。
だが、それは自分に言い聞かせる言葉でもあった。
「似てるだけだ。全部が同じってわけじゃねぇ」
そう言いながら、視線は周囲を素早くなぞる。
導線。
死角。
人が集められる位置。
――分かる。
分かってしまうことが、嫌だった。
◇ ◇ ◇
「……変ですね」
ミラが、小さく首を傾げた。
「なにがだ?」
「ここ、“とおるため”につくられてます」
即答だった。
迷いがない。
「……どういう意味だ」
「ひとが、ながれます。
とまるためじゃなくて」
オズマが、思わず息を飲んだ。
「流す……?」
「はい。
あっちへ、こっちへ。
ちゃんと、いどうできるように」
ミラの指が、自然と奥を示す。
ルコールは、その仕草から目を離さなかった。
(同じだ)
記憶の中の保護区も、そうだった。
人を留める場所じゃない。
運ぶ場所だ。
――次へ送るための。
◇ ◇ ◇
「構造が……洗練されてる」
バルドが、低く言った。
「昔の施設より、無駄がねぇ。
隠す気も、誤魔化す気もない」
「つまり?」
「使い続ける前提だ」
その言葉が落ちた瞬間、
ルコールの喉の奥に、鉄の味が広がった。
懐かしい。
だが、安心ではない。
知っている。
だが、戻りたくない。
同じ形。
同じ導線。
同じ視線の高さ。
――だが、やり方だけが進化している。
それが、たまらなく嫌だった。
◇ ◇ ◇
通路を進むたびに、扉がいくつも現れる。
重すぎない扉。
子供の力でも開けられるように配慮された造り。
ルコールは、その一つに手をかけた。
――きぃ。
中は、生活区画だった。
簡素な寝台。
低い机。
壁際に並ぶ小さな棚。
子供が使う前提の高さ。
角はすべて丸められている。
「……」
誰もいない。
埃は、ない。
だが、人の気配もない。
次の部屋。
その次の部屋。
どこも同じだった。
生活していた痕跡はある。
だが、生活して“いる”感じがしない。
「おかしいですね……」
ミラが、ぽつりと呟く。
「ここ、さっきまで……だったはずです」
「何がだ?」
「ひとが、いた」
迷いのない言い方だった。
「おなか、すいてた。
あそびたかった。
……ねむかった」
その言葉に、フォティが息を詰める。
「……ミラ」
「いなくなりました」
断定だった。
ルコールは、奥歯を噛みしめた。
(連れて行った、か)
しかも――
(最近だ)
扉を閉め、通路へ戻る。
しばらく歩いた、その時だった。
――かすかに、声がした。
子供の声。
笑い声。
重なり合う、軽い足音。
「……今の」
フォティが顔を上げる。
ルコールは、即座に進行方向を変えた。
「行くぞ」
音のする方へ。
静かな通路を抜けるにつれ、
声は少しずつ、はっきりしていく。
楽しげな声。
だが――
どこか、閉じた響き。
ルコールの胸の奥で、
嫌な感覚が、ゆっくりと形を成していった。
(第68話 了)
よろしければ、評価と気に入っていただければブックマークをお願いします。
執筆の励みになります。




