【第66話 使われている道】
【第66話 使われている道】
地下通路の入口で、バルドは軽く肩を回した。
「じゃ、俺が先頭な」
暗視ゴーグルを下ろし、迷いなく一歩踏み出す。
「殿は俺だ」
即座にルコールが応じる。
その間に、オズマが一歩前に出て通路を見渡した。
ロウグは最後尾で、何も言わずに頷く。
◇ ◇ ◇
通路は静かだった。
石の壁。
湿った空気。
足音が吸い込まれるような床。
「……思ったより、歩きやすいな」
オズマが低く呟く。
「だろ?」
バルドが前を向いたまま応じる。
「古い王家の抜け道なら、もっと崩れててもいい」
「だが、崩れていない」
ルコールが淡々と補足する。
その時。
「すごい……」
後ろから、少し弾んだ声。
ミラだった。
「本当に、地下通路……」
「……ミラ?」
フォティが小声で呼ぶ。
「冒険の本に出てくるやつみたいです」
目を輝かせ、壁を見回している。
「松明があったら完璧ですね」
「完璧にしなくていい」
オズマが即座に釘を刺す。
「これは遊びじゃない」
「はい」
即答だった。
だが、その声はどこか楽しそうだった。
◇ ◇ ◇
少し進んだところで、バルドの足が止まる。
「……なぁ」
「どうした」
ルコールが問う。
「床、見てみろ」
示された場所。
一見すると何もない。
だが、よく見ると――
「踏まれてねぇな」
ロウグが低く言った。
「中央だけ、妙に避けられてる」
「偶然じゃない」
バルドが続ける。
「人が“慣れて”歩いてる」
オズマが眉をひそめる。
「つまり……」
「ここ、使われてる」
即答だった。
◇ ◇ ◇
さらに進む。
天井が低くなり、通路が僅かに曲がる。
バルドはしゃがみ、小石を一つ転がした。
――音が、途中で消えた。
「……落とし穴か」
「正確には、警告用だな」
バルドが立ち上がる。
「踏めば音が鳴る。
踏み抜きはしない」
「殺しに来ていない罠か」
ルコールの声は冷静だった。
「止めるための配置だ」
「知らせて、時間を稼いで、逃げる」
ロウグが頷く。
「……人が管理してる通路だ」
◇ ◇ ◇
「でも……」
ミラが、首を傾げる。
「悪い人の通路なら、もっと怖い仕掛けにしませんか?」
一瞬、全員が沈黙した。
フォティが困ったように言う。
「ミラ、それは……」
「怖がらせる必要がないんだ」
オズマが、ゆっくりと言った。
「ここを使うのは“仲間”だけだと思っている」
ミラは少し考え、
「……だから、迷わないようにしてる?」
その言葉に、ロウグが目を細めた。
「……ああ」
「案内路だな」
バルドが苦く笑う。
◇ ◇ ◇
分岐点に辿り着く。
ロウグが予見していた三つのルート。
教会方面。
旧倉庫方面。
外郭側。
――どれも、何もない。
「全部、外れだ」
ロウグが低く言う。
「だが……」
ルコールが、残る一本道を見る。
「ここだけ、整備されている」
床は均され、
壁は補修され、
罠の配置すら合理的だった。
「……王城の真下だな」
オズマの声が、わずかに震えた。
「一番、触れちゃいけねぇ線だ」
バルドが肩をすくめる。
ミラは、少しだけ背筋を伸ばした。
「……冒険、ですね」
「違う」
ルコールが静かに言う。
「これは――踏み込む話だ」
通路は、何も言わずに続いていた。
まるで、
“来ると分かっていた”かのように。
(第66話 了)




