【第65話 地下へ】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。
【第65話 地下へ】
王都ギルドの昼は、騒がしい。
依頼掲示板の前では冒険者たちが声を荒げ、
受付では書類と硬貨の音が絶えない。
だが、ギルドマスターの執務室は静かだった。
ロウグ・ヴェンターの前に立つのは五人。
ルコール。
バルド。
オズマ。
フォティ。
ミラ。
「揃ったな」
ロウグは短く言った。
「話は簡単だ。
俺が間借りしてる酒蔵の奥に、通路がある」
オズマが一歩前に出る。
「王都の地下動線、か」
「ああ」
ロウグは頷いた。
「正式に管理されてるもんじゃねぇ。
だが――使われている」
その言葉に、場の空気が一段落ちる。
◇ ◇ ◇
一同は、ギルド裏の通路を通り、地下への階段を下りていく。
昼時。
人の出入りが多い時間帯だが、ここは人目につかない。
「なぁロウグ」
バルドが歩きながら言った。
「ギルドの地下に、こんなもん残ってるってのも大概だな」
「王都は古い街だ」
ロウグは淡々と返す。
「古い街はな、使われなくなったもんを
地下に沈めたままにする」
「趣味が悪い」
「同感だ」
オズマは無言のまま、階段を下り続けている。
視線は、すでに先を見ていた。
◇ ◇ ◇
やがて、一同は石造りの扉の前に立った。
重厚な鍵。
私物管理を示す印。
「ここは、俺が間借りしてる酒蔵だ」
ロウグが振り返る。
「ギルドの正式区域じゃねぇ。
――だから、誰も“立ち入る前提”で管理してねぇ」
一拍置いて、続ける。
「この先に何があっても、
見なかったことにはできなくなる」
ルコールが静かに言った。
「……覚悟の共有だな」
「ああ」
ロウグは鍵を回す。
――カチ。
扉が開いた。
薄暗い空間。
埃と酒の匂いが混じった、酒蔵だ。
◇ ◇ ◇
通路へ続く壁際へ向かう途中。
「……おい」
ロウグが足を止めた。
バルドを見る。
「余計なことは、するなよ」
「今回は真面目だって」
即答だった。
その直後――
ガシャン。
乾いた音が、酒蔵に響いた。
ミラの足元で、一本の瓶が転がり、
床に落ちて砕け散る。
琥珀色の液体が、ゆっくりと広がった。
「……あ」
ミラが、息を呑む。
ロウグの動きが止まる。
数秒。
何も言わず、床を見つめている。
「……ミラ」
低い声だった。
「それ、俺の酒だ」
「ご、ごめんなさい……!」
ミラは深く頭を下げる。
ロウグは、しばらく黙っていたが――
やがて、短く息を吐いた。
「……いい」
そう言った。
「もう開ける予定はなかった」
床に広がる酒から、目を逸らす。
「最後の一本だがな」
その言葉に、場の空気が一瞬だけ凍る。
◇ ◇ ◇
「……」
その時だった。
バルドが、妙に咳払いをした。
「なぁロウグ」
「なんだ」
「その酒ってよ」
バルドは外套の内側に手を入れ――
一本の瓶を、そっと取り出した。
同じ形。
同じラベル。
まだ、封は切られていない。
「……これか?」
ロウグの目が、ゆっくりと細くなる。
「お前」
「いや、その」
バルドは珍しく言葉に詰まった。
「割れる前に、たまたまな。
落ちてたらもったいねぇと思って」
「懐に入れた?」
「……入れた」
ロウグは、無言で瓶を見る。
やがて、ゆっくりと手を伸ばした。
受け取る。
封を確かめる。
「……確かに」
低く呟く。
「これは、まだ開いていない」
バルドは、気まずそうに頭を掻いた。
「……悪い」
「……」
ロウグは、瓶を胸元に抱えた。
「今回は、帳消しだ」
「助かる」
「次はない」
「分かってる」
そのやり取りを、ミラは呆然と見ていた。
◇ ◇ ◇
ロウグは、通路の奥へ視線を向ける。
「……行くぞ」
声は、もう平常に戻っていた。
「酒の話は終わりだ」
だが、その背中はわずかに硬い。
通路の先に待つものが、
酒より重いことを知っているからだ。
誰も、引き返すとは言わなかった。
(第65話 了)
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