【第64話 連れていく理由】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
シリアス回に戻るので、次話から慎重になります。
本日の投稿はここまでとなります。
※定期更新日は月曜日の予定です()
【第64話 連れていく理由】
昼飯前の王都は、少しだけ気が抜けている。
朝の慌ただしさが一段落し、
昼の喧騒にはまだ早い。
通りには屋台が並び始め、焼き物の匂いが風に乗って漂っていた。
「……装備を取るだけだ」
ルコールはそう言って歩き出した。
理由は説明しない。
説明すれば、それが覚悟になってしまう。
「分かってるよ」
バルドは軽く返す。
だが視線は、無意識のうちに周囲を一度確かめていた。
◇ ◇ ◇
宿屋の部屋は、昨夜と何も変わっていなかった。
剣。
外套。
銃剣。
いつも通りの配置。
それが逆に、これから向かう場所を否定しているみたいだった。
ルコールが剣を手に取った、その時だった。
「……ルコ兄」
振り返ると、フォティが立っていた。
ミラはその少し後ろで、二人の様子を静かに見ている。
「どうした」
「……ぼくも、行く」
迷いのない声だった。
部屋の空気が、わずかに張りつめる。
「ダメだ」
ルコールは即座に言う。
「危険だ。ここで待て」
「分かってる」
フォティは目を逸らさない。
「でも……待ってる方が、こわい」
一瞬、言葉が詰まる。
バルドが、横から小さく息を吐いた。
「……ああ、坊主」
肩をすくめる。
「その顔はもう決まってるな」
ルコールは、フォティの後ろにいるミラを見る。
ミラは状況を完全に理解しているわけじゃない。
だが――
一人で残せる存在じゃないことだけは、はっきりしていた。
「ミラ」
「……ひとり、は」
ミラは小さく首を振った。
それで十分だった。
ルコールは視線を落とし、剣を腰に戻す。
「……装備を取るだけだ」
同じ言葉を、もう一度。
自分への言い訳だと分かっていながら。
◇ ◇ ◇
宿を出ると、通りの屋台が目に入った。
「昼前だな」
バルドが言う。
「地下に潜る前に腹を空かせるのは、最悪だぜ」
「食べ歩きできるものでいい」
ルコールが答える。
フォティは、屋台をきょろきょろと見回した。
「これ……持っていける?」
串焼きを指差す。
「ああ」
バルドが銅貨を放る。
「噛むだけで済むやつにしとけ」
ミラは焼きパンを両手で受け取った。
「……あたたかい」
その一言が、妙に胸に残る。
ルコールは、受け取った包みを外套の内側にしまった。
食べる様子はない。
「……食べないの?」
フォティが不思議そうに聞く。
「後でいい」
それだけ答えた。
昼前の空腹より、
今は他に気を取られていた。
バルドはその様子を見て、何も言わずに肩を竦めた。
「行こう」
フォティが言う。
誰も返事はしなかった。
だが――
誰一人、止めもしなかった。
昼飯前の王都は、穏やかだった。
その穏やかさが、
これから向かう場所との落差を、
いやでも際立たせていた。
(第64話 了)
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