【第63話 踏み跡の主】
息抜き回ってことでよろしく!
【第63話 踏み跡の主】
ギルド地下へ続く階段を下りながら、バルドは妙に上機嫌だった。
「いやぁ……久しぶりだな」
両手を頭の後ろで組み、軽い足取りで言う。
「今日は俺も冒険者気分だぜ!」
「……お前」
ロウグが即座に睨む。
「冒険者ライセンス持ってないだろ」
「細けぇこと言うなよ」
「細かくない。規則だ」
「だから“気分”って言ったんだろ」
バルドは肩をすくめた。
「王家の非常通路の真上が、ギルドマスターの酒蔵。
なかなか味わえねぇシチュエーションだぜ?」
「ここは遊び場じゃない」
ロウグは吐き捨てるように言う。
「言っておくがな。
この酒蔵、ここ一年は降りていない」
「一年?」
「ああ。
鍵も掛けっぱなしだ。
開けるまでは、中がどうなってるか分からん」
ルコールはその言葉を聞いて、小さく頷いた。
「……つまり」
「本来なら、埃だらけのはずだ」
ロウグはそう言い切り、扉の前に立つ。
◇ ◇ ◇
二重の鍵。
錠前に破壊された形跡はない。
ロウグが鍵を回す。
カチ。
カチ。
重い音を立てて、扉が開いた。
――その瞬間。
「……」
三人の足が、同時に止まった。
床一面に広がる埃。
その上を、はっきりと踏み荒らした足跡。
往復。
何度も。
迷いのない動線。
「……おいおい」
バルドが、思わず声を漏らす。
「これは……」
「一年、放置していた場所だぞ……」
ロウグの声が低くなる。
ルコールは無言で足元を見つめ、静かに言った。
「古い埃の上に、新しい足跡だ。
最近、何度も出入りされている」
◇ ◇ ◇
足跡は、迷いなく奥へと続いていた。
「入口、すぐ分かるな」
ルコールが言う。
埃が削れ、靴跡が集中している壁際。
一見するとただの石壁だが、隠す気は感じられない。
「親切だな」
バルドが鼻で笑う。
「足跡が案内してくれてる」
ロウグは無言で、その奥の扉を押した。
◇ ◇ ◇
中は酒蔵だった。
整然と並ぶ樽と棚。
管理の行き届いた配置。
――その前で。
棚の前に立ったロウグの動きが、止まった。
「……おかしい」
一段。
もう一段。
指で数え、視線を走らせ――
「……減ってるな」
低く、噛み殺すような声だった。
「は?」
バルドが聞き返す。
「酒だ。数が合わない」
ロウグは、はっきりと言った。
「俺が管理してる。
この棚は、こんな並びじゃない」
次の瞬間。
「誰だぁぁぁ!!」
地下に、怒号が響き渡った。
「俺の!!
俺の秘蔵に!!
勝手に手ぇ出したのは!!」
拳が震え、肩が怒りで上下する。
「許さん……絶対に許さん……!」
その背後で――
コトン。
小さな音。
バルドが、さりげなく一本の瓶を手に取っていた。
「……なにしてる」
ロウグの声が、低く刺さる。
「いや?」
バルドは悪びれもせず、ラベルを眺める。
「減ってるかどうかの確認だよ」
「戻せ」
「減ってたら困るだろ?」
言いながら、自分の外套の内側に滑り込ませる。
「確認は俺が引き受ける」
「お前、それ横領だぞ」
「違うな」
即答だった。
「証拠保全だ」
ロウグの額に、青筋が浮いた。
「返せ」
「後でな」
バルドは、にやりと笑う。
「この通路の主が誰か分かったら、祝杯用に」
ロウグは、天井を仰いだ。
「……今日という日を、俺は忘れん……」
ルコールは、静かに通路の奥を見据えていた。
足跡は、まだ新しい。
(第63話 了)
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