【第60話 奥の席】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。
※2026/01/28 イラストを更新しました
【第60話 奥の席】
教会を出たところで、オズマとは別れた。
「俺は王城に戻る」
それだけ言って、彼は夜の街へ溶けていく。
「一人でか」
「一人でいい」
短いやり取りだったが、互いに十分だった。
「あまり派手に動くな」
「分かっている」
それが、今夜の約束だった。
◇ ◇ ◇
酒場に戻ると、まだ灯りは落ちていなかった。
客は減っているが、酔いの残り香と笑い声が空気に張り付いている。
カウンターの奥で、バルドとロウグが向かい合っていた。
ルコールの姿を見て、バルドが片眉を上げる。
「……珍しく遅ぇな」
「少し、歩いてた」
それ以上は言わない。
ロウグが、グラスを置いた。
「……裏、使うか」
バルドが短く頷く。
◇ ◇ ◇
酒場の奥の部屋は、相変わらず狭かった。
厚い壁、低い天井。
酒樽と古い帳簿が並ぶ、話すためだけの空間。
ロウグは扉を閉め、鍵を掛ける。
「さて」
椅子に腰を下ろし、三人を見回す。
「今夜は、どっちだ」
「どっち?」
バルドが聞き返す。
「笑って終われる話か、
聞いた後で寝つきが悪くなる話か」
ルコールは、間を置かず答えた。
「後者だ」
バルドが、小さく舌打ちする。
「……だと思った」
◇ ◇ ◇
「教会を見てきた」
ルコールは、それだけ言った。
ロウグの目が、わずかに細くなる。
「何も起きなかった、って顔じゃねぇな」
「祈りの直後だった」
「ほう」
「人が集まっていた形跡はある。
だが、中には誰もいなかった」
「全員帰った?」
「そうは見えなかった」
ルコールは続ける。
「長椅子が、まだ温かった」
ロウグの指が、机の上で止まる。
「……時間差じゃねぇな」
「一斉に動いた」
バルドが、低く唸る。
「合図でもあったか」
「あるいは、慣れている」
ロウグが言葉を継ぐ。
◇ ◇ ◇
「最近な」
ロウグは、ゆっくり口を開いた。
「王都の依頼が、妙に整いすぎてる」
「整いすぎ?」
「面倒な芽が、最初から摘まれてる」
グラスを傾ける。
「騎士団が優秀なのは確かだ。
だがよ……」
一拍置く。
「冒険者が“触る前”に、話が消えてる」
「消えてる、か」
「記録に残らねぇ。
相談にもならねぇ。
最初から無かった顔だ」
バルドが、腕を組む。
「仕事が減った、ってより……」
「道を塞がれてる」
ロウグは頷いた。
◇ ◇ ◇
「誰か一人が悪いわけじゃねぇ」
ロウグは、天井を見上げる。
「役割が、出来上がっちまってる」
「役割?」
「騎士団は守る。
教会は導く。
王は統べる」
視線を戻す。
「で、冒険者は……余る」
笑いはなかった。
◇ ◇ ◇
「オズマは?」
バルドが尋ねる。
「王城に戻った」
「一人で?」
「ああ」
ロウグは、深く息を吐く。
「……王子様も、気づいたか」
誰も否定しなかった。
◇ ◇ ◇
ルコールは、最後に一言だけ落とす。
「祈りの後に、人が消える場所を見た」
それだけで十分だった。
ロウグは、しばらく黙り込む。
やがて、静かに口を開いた。
「……酒が、不味くなる話だ」
「今さらだろ」
バルドが返す。
◇ ◇ ◇
ロウグは、二人を見た。
「で?」
低い声だった。
「俺はギルドマスターだ。
動ける範囲も、限界も知ってる」
一拍置く。
「何の“種”が欲しい」
情報か。
人か。
事故か。
ルコールは、少し考えてから言った。
「この町の教会だ」
「教会?」
「ああ。
特に――建てられた日が新しいものから順に」
ロウグの眉が、わずかに動く。
「建築記録か。
ギルドに残ってるかは……怪しいぞ」
「構わない」
ルコールは続けた。
「もう一つ」
「まだあるか」
「王家の非常通路」
その言葉に、部屋の空気が一段落ちる。
「……それは、ギルドの管轄外だ」
「分かってる」
「入手できる保証もねぇ」
「それでもいい」
ロウグは、長く息を吐いた。
「……嫌な芽だな」
だが、視線は逸らさない。
「分かった。
“種”として探してやる」
答えは、まだ出ていない。
だが――
掘る場所は、もう決まった。
(第60話 了)
よろしければ、評価と気に入っていただければブックマークをお願いします。
執筆の励みになります。




