【第6話 影を裂くもの】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。
※2026/01/11 イラストを更新しました
【第6話 影を裂くもの】
――朝焼けが街を染めていた。
ギルドの扉を押し開けると、ざわめきが空気を震わせた。
報告書を抱えた受付員たちの顔が、どれも強張っている。
「……また、行方不明者か。」
ルコールの声に、受付の青年が小さくうなずいた。
「はい。北の交易路で護衛隊が三組、消息不明です。
残されたのは焦げた荷車と……ガラスみたいに溶けた地面だけ。」
ルコールは眉をひそめ、報告書を手に取った。
紙面には、“高熱・視認不能の光による分解”という記録が並ぶ。
あの森で見た“光の災厄”と酷似していた。
「……依頼は出てるのか。」
「はい。Aランク以上限定ですが、誰も名乗りを上げません。
危険度は殲滅級。戻った者はいません。」
ルコールは無言で署名した。
「受ける。」
「ひとりで、ですか?」
「いつも通りだ。」
青年が何か言いかけたが、ルコールは外套を翻し扉を押し開けた。
朝の光が差し込むと同時に、室内のざわめきが止まる。
その背中を見送った受付員がぽつりと呟いた。
「……あの人、また“光”を追う気だ。」
街を離れると、風が焦げた臭いを運んできた。
枯れ木は黒く変色し、草も焼け落ちている。
陽が昇っても、ここだけ時間が止まったように静かだった。
ルコールは片膝をつき、地面に触れる。
指先が、冷たいガラス片を弾いた。
「……溶けてやがる。」
黒く焦げた大地。
まるで、光そのものが灼熱の刃となって大地を刻んだようだった。
そのとき、空気がひずんだ。
背後――。
反射で身体をひねる。
次の瞬間、閃光が走った。
ルコールは地面を蹴り、飛び退く。
光が通った跡の土が、煙を上げて溶け落ちた。
「……魔法か。」
煙の中から、ひとりの影が歩み出る。
白い外套、顔を覆う金属仮面。
胸に刻まれた白金の“瞳”の紋章。
「……世界救済団体、か。」
返答はない。
男はゆっくりと右腕を持ち上げた。
――音が消える。
次の瞬間、空間がねじれ、光が閃いた。
光線が地面を抉り、岩を砕く。
ルコールはその下をすり抜け、銃剣を構えた。
反撃の一撃が、仮面の肩口を裂く。
金属音。
ルコールの視線が鋭くなる。
切断面から覗いたのは――筋肉ではなく、**金属と神経を編み込んだ構造体**。
「……やっぱりな。機械に人間を詰め込みやがったか。」
仮面の男がよろめく。
その背中から、淡い光が脈打つように漏れた。
皮膚の下を、ケーブルのような光の管が走っている。
それは、**生体神経を束ねて機械中枢に接続した“第一世代の兵”**――
ラドクリフによる初期の改造実験の生き残りだった。
「人を……燃料にしたのかよ。」
ルコールの声に、仮面の下からノイズが漏れる。
『……わタ……シは……救済……ヲ……』
音声ではない、断片的な“叫び”。
その言葉には、まだ人間の声が混じっていた。
「……喋るのか、お前。」
ルコールは目を細め、銃剣を逆手に構える。
「なら、せめて……楽にしてやる。」
風が止んだ。
一瞬後、爆ぜる光とともに二人の影が交錯する。
閃光。火花。金属が軋み、火薬の臭いが広がった。
刃が閃き、仮面が砕ける。
覗いたのは、片側だけ人の顔を残した歪な肉体。
その瞳が、わずかに震えた。
『……た……すけ……て……』
ルコールは歯を噛みしめ、
静かに引き金を引いた。
銃声が森を貫き、光が弾けた。
機械の悲鳴が止むと、風が戻った。
「……安らかに眠れ。
お前は“救済”じゃなく、“犠牲”だ。」
ルコールは銃剣を下ろし、仮面の残骸を見下ろした。
**その胸部には、白金の紋章が焼き付いていた。**
(第6話 了)




