【第58話 動き出す夜】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。
※2026/01/27 イラストシーンを変更しました
【第58話 動き出す夜】
「……静かだね」
宿へ戻る途中、フォティが小さく呟いた。
夜の王都は、昼間よりも人の気配が薄い。
灯りは点いているのに、声が少なく、
石畳を踏む音だけがやけに響く。
「王都の夜は、こんなものです」
ミラは穏やかにそう答えた。
「祈りの後は、皆さん静かになりますから」
「祈りの後……」
フォティは少し考え込むように歩きながら、
ちらりと後ろを振り返る。
オズマは、険しい表情のまま黙っていた。
「オズマ?」
呼びかけられても、すぐには答えない。
「今日は、もう休め」
短く、それだけを告げる。
「え、でも――」
「夜更かしは良くない」
言葉を重ねない。
説明もしない。
ミラは一瞬だけ首を傾げたが、
フォティの袖を引いて静かに言った。
「行きましょう、フォティ」
「……うん」
二人はそのまま宿へ入っていく。
扉が閉まる音を聞いてから、
オズマはしばらくその場に立ち尽くしていた。
◇ ◇ ◇
夜風に当たる。
それが理由だった。
考えを整理するためでも、
誰かを疑うためでもない。
ただ、今は部屋に戻れなかった。
王都の通りを、あてもなく歩く。
その途中で――
「……王子様が、こんな時間に一人か」
低い声が、建物の影からかかった。
振り向くと、ルコールが立っている。
「待機中か?」
オズマが聞く。
「ああ」
短い返事。
「迎えが必要になる」
それだけで、状況は察せた。
しばらく、二人の間に沈黙が落ちる。
「……少し、頼みがある」
オズマが先に口を開いた。
「行き先は?」
「教会だ」
その一言で、
ルコールの表情がわずかに変わる。
すぐには答えない。
一拍、考える素ぶりを見せる。
「……少し待て」
そう言って、ルコールは通りを戻った。
◇ ◇ ◇
酒場の中は、相変わらず騒がしかった。
笑い声と酒の匂い。
昼間の王都とは、まるで別の世界だ。
バルドはカウンターに肘をつき、
向かいにはロウグが杯を傾けている。
「一言だ」
ルコールは、余計な前置きをしない。
「迎えは遅れる」
バルドの動きが、一瞬止まった。
ロウグは杯を持ったまま、何も言わない。
三人の間に、短い沈黙。
「……今夜か」
ロウグが、低く呟いた。
「ああ」
それ以上の説明はなかった。
バルドは立ち上がり、
ルコールを見て言う。
「無理はするなよ」
「する時は、もうしてる」
それで十分だった。
◇ ◇ ◇
再び、夜の通り。
オズマは何も聞かなかった。
ルコールも、何も説明しない。
「……巻き込んでしまったな」
オズマが、ぽつりと漏らす。
「最初から、そのつもりだったんだろ」
「……ああ」
「なら、いい」
それで話は終わった。
二人は並んで歩き出す。
行き先は、夜の教会。
王都では当たり前に存在する場所。
だが――
今夜は、違って見える。
同じ夜の中で、
それぞれが、別の方向へ動き始めていた。
(第58話 了)
よろしければ、評価と気に入っていただければブックマークをお願いします。
執筆の励みになります。




