【第57話 祈りの後】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。
※2026/01/27 イラストを変更しました
【第57話 祈りの後】
夜の王都は、静かだった。
教会の外に設えられた一般参拝場では、
人々が列をなし、順番に祈りを捧げている。
歌はなく、声も小さい。
ただ、胸に手を当て、頭を垂れるだけ。
フォティとミラも、その中にいた。
◇ ◇ ◇
「……終わったね」
フォティが、小さく息を吐いた。
「うん」
ミラは頷き、自然な仕草で胸元に手を当てる。
「今日も、穏やかでした」
「“今日も”ってことは、よく来るの?」
「はい」
即答だった。
「夜の祈りは、大切なので」
フォティはそれ以上突っ込まず、
少しだけ周囲を見回した。
「なんか……思ってたより普通だね」
「普通ですよ?」
ミラは不思議そうに笑う。
「ここは、王都の教会ですから」
◇ ◇ ◇
一方で――
オズマは、参拝場から離れた建物の影に立っていた。
外の祈りが終わる少し前。
教会の脇にある、目立たない扉が開いた。
(……来た)
中から現れたのは、
先ほど採血を受けていた信徒だった。
両脇を、静かに人に挟まれている。
抵抗はない。
声も出さない。
ただ、
少しだけ俯いて歩いていた。
(参拝とは……別枠、か)
オズマは、唇を引き結ぶ。
◇ ◇ ◇
ほどなくして、
フォティとミラが戻ってくる。
「オズマ、待たせた?」
「いや」
オズマは、何でもない風を装った。
「終わったのか」
「うん。静かだった」
「ね」
ミラも頷く。
「いつも通りです」
その言葉が、
オズマの胸に、わずかに引っかかった。
◇ ◇ ◇
「……少し、聞いてもいいか」
歩き出しながら、オズマは言う。
「この教会では、
信仰に背いた人は、どうなる?」
ミラは、すぐには答えなかった。
一拍。
それから、穏やかに口を開く。
「背く、というより……」
言葉を選ぶ仕草。
「心が弱くなった時、ですね」
「弱くなると?」
「神さまから、少し遠くなります」
フォティが首を傾げる。
「それって……悪いこと?」
「いいえ」
ミラは、はっきりと否定した。
「誰にでも、ありますから」
「じゃあ、その人はどうなるの?」
フォティの問いに、
ミラは少しだけ視線を落とす。
「悔い改めの機会を、いただきます」
「……怒られたり?」
「しません」
きっぱりとした口調だった。
「救っていただくんです」
◇ ◇ ◇
「救い……」
オズマは、低く繰り返した。
「それは、戻ってくるのか?」
ミラは、少し考える。
「わかりません」
ためらいのない声。
「でも、きっと神さまのもとへ」
その言い方には、
“帰ってくる”という発想が含まれていなかった。
オズマは、それ以上聞かなかった。
聞けば、
何かが壊れる気がした。
◇ ◇ ◇
宿への道を歩きながら、
三人の足音だけが響く。
フォティは黙り、
ミラはいつも通りで、
オズマだけが考え込んでいた。
(外の祈りと、内の処置)
(別の導線、別の意味)
そして――
別の場所。
教会の奥に、
“人が消える先”がある。
今夜は追わない。
今夜は動かない。
だが、もう見なかったふりはできない。
王都の夜は静かだ。
静かすぎるほどに。
(第57話 了)
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