【第52話 王都ギルド】
王都ギルドの内部は、広かった。
天井は高く、梁がむき出しになっている。
地方のギルドと比べれば倍以上の規模だが、雑然とした印象はない。
人は多い。
だが、騒がしくはなかった。
それぞれが自分の用事を理解し、必要以上に長居をしない。
王都という街の性質が、そのまま空間に表れている。
◇ ◇ ◇
「依頼の確認ですね」
受付の女性は淡々と書類を捌く。
「滞在登録は三名。期間は未定、と……」
そこまで言って、視線がわずかに止まった。
オズマの顔を、もう一度見る。
一瞬の間。
それから、何事もなかったかのように続きを口にした。
「……失礼しました。手続きに問題はありません」
声色は変わらない。
だが、言葉の選び方が慎重になっている。
バルドはその変化を見逃さなかった。
◇ ◇ ◇
依頼板の前に移動する。
貼られている依頼は多いが、内容はどれも穏やかだった。
物資運搬の護衛。
市場周辺の清掃奉仕。
簡易警備の補助。
期間限定のパーティ募集。
討伐依頼は、ほとんど見当たらない。
「……平和だな」
バルドが呟く。
「王都の騎士団が機能していますので」
受付が答える。
「治安維持や魔物対応は、基本的に騎士団の管轄です」
その視線が、ほんの一瞬だけオズマに向いた。
「王都周辺で大きな問題が起きないのは、そのおかげです」
「冒険者の出番が減った、ってことか」
ルコールが言う。
「完全に、ではありませんが」
受付は首を振る。
「人手が必要な部分――運搬や補助、奉仕活動などは、引き続き冒険者の方々にお願いしています」
◇ ◇ ◇
依頼板を眺めながら、オズマが一枚の紙を指で弾いた。
「清掃奉仕、か」
「はい。王都では評判も重要です」
受付が淡々と説明する。
「奉仕活動に参加した冒険者は、次の依頼で優遇されることもあります」
「秩序を回すための仕組み、だな」
オズマはそう言って頷いた。
バルドは鼻で笑う。
「悪く言えば、飼い慣らされてる」
「良く言えば?」
ルコールが聞く。
「余計なことをしなくて済む」
肩をすくめる。
「王都じゃ、“英雄”は扱いづらい」
◇ ◇ ◇
手続きに戻ると、書類はすでに整えられていた。
「こちらが、滞在中の行動指針です」
差し出された紙には、細かな規定が並んでいる。
夜間行動の制限。
騎士団との役割分担。
宗教施設周辺での注意事項。
「宗教絡みの項目が多いな」
オズマが言う。
「巡礼者が増えていますので」
受付は即答した。
「混乱を避けるためです。王都では、騎士団と教会が連携していますから」
それは誇張でも強調でもなく、ただの事実として語られた。
◇ ◇ ◇
手続きを終え、三人がギルドを出ようとした、その時だった。
「……あ、バルド様」
受付が声をかける。
カウンターの下から、一通の封書を取り出した。
「王都ギルドマスターから、お預かりしています」
差し出された封筒には、くだけた文字で宛名が書かれていた。
『バルドへ』
「今夜、いつもの酒場で一杯どうだ、とのことです」
バルドは一瞬だけ目を細めた。
「……相変わらずだな、あの人」
「お知り合いですか?」
「まぁな。飲み仲間みたいなもんだ」
軽く答えながらも、封筒の重みを確かめるように懐へしまう。
ただの世間話の誘い。
そういう体裁だ。
だが――
王都ギルドマスターは、無闇に人を呼び出す男じゃない。
「行くか?」
ルコールが聞く。
「ああ」
バルドは短く答えた。
それから、ルコールにだけ聞こえる程度の声で言う。
「……酒の席なら、本音も零れる」
オズマには向けない言葉だった。
彼もまた、王国側の人間だ。
それを、バルドは忘れていない。
王都は、相変わらず平和だった。
だがその夜、
“動けない立場にいる人間”の口から、
静かに、王都の歪みが語られることになる。
(第52話 了)
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