【第51話 入都】
王都の城壁は、遠くから見ても圧があった。
白い石で組まれた壁は高く、継ぎ目が少ない。
防壁というより、秩序そのものを形にしたような印象だ。
「でかいな……」
フォティが思わず呟く。
「大きい、というより……閉じてますね」
ミラは城門を見上げながら、静かに言った。
その言葉に、ルコールは何も返さない。
ただ、視線を前に戻した。
◇ ◇ ◇
城門前の列は長いが、荒れてはいなかった。
誰も割り込まない。
誰も声を荒げない。
順番が来ると、衛兵が淡々と声をかける。
「身分証を」
ルコールが差し出す。
続いて、オズマ。
衛兵の視線が一瞬だけ止まった。
「……失礼しました」
それ以上は何も言わない。
「滞在目的は?」
「ギルドへの立ち寄りと、短期滞在だ」
「問題ありません」
荷の確認も簡潔だった。
形式だけが、正確に消化されていく。
「通行を許可します」
門が開く。
それだけで、王都は彼らを受け入れた。
◇ ◇ ◇
城門を抜けたところで、バルドが大きく伸びをする。
「さて。王都だ」
「思ったより、あっさりだな」
ルコールが言う。
「王都はな、騒がないのが一番厄介なんだ」
バルドはそう言って、くいっと親指で街の奥を指した。
「俺とオズマ、それにルコール。ギルドに行く」
「フォティとミラは?」
「観光でも、宿探しでもいい。一般人装うには、ちょうどいい」
そう言ってから、フォティを見た。
「坊主」
「……なに」
「眠り姫を守ってたナイト様には、ちょうどいい仕事だろ」
「っ!」
フォティは顔を赤くする。
「そ、そういう意味じゃ……!」
「どういう意味だと思った?」
バルドが笑う。
「王都は人が多い。気を抜くなよ」
「わ、わかってるって!」
ミラは二人のやり取りを見て、小さく首を傾げた。
「ナイト、ですか?」
「ち、違う!」
フォティは慌てて否定する。
「ただ、一緒に歩くだけで……」
「ええ」
ミラは穏やかに微笑んだ。
「一緒に行きましょう」
「……うん」
その様子を見て、バルドは満足そうに鼻を鳴らす。
「よし。じゃあ後で合流だ」
◇ ◇ ◇
王都ギルドは、街の中心近くにあった。
人の出入りは多いが、雑多さはない。
全員が「役割」を理解して動いている。
受付の女性が、顔を上げる。
「いらっしゃいませ。ご用件は?」
「依頼の確認と、滞在登録だ」
バルドが答える。
手続きは迅速だった。
余計な世間話もない。
オズマが名を告げても、特別な反応はない。
理解した上で、淡々と処理される。
「……ここでは、肩書きも道具か」
オズマが小さく呟く。
「使い方を間違えると、切れるぞ」
バルドが返す。
ルコールは、周囲を見回した。
(静かだな)
活気はある。
だが、騒がしさがない。
◇ ◇ ◇
一方、フォティとミラは人通りの多い通りを歩いていた。
「すごいな……全部、整ってる」
「はい。でも……」
ミラは少し考える。
「迷いにくいですね」
「それ、いいことじゃないのか?」
「はい。でも……」
言葉を探し、首を振る。
「いえ。気のせいですね」
フォティはそれ以上聞かなかった。
「王都、嫌いじゃない?」
「いいえ」
ミラは答える。
「静かです」
「……確かに」
賑やかなのに、静か。
それが王都だった。
◇ ◇ ◇
それぞれの場所で、それぞれの役割を果たす。
まだ何も起きていない。
誰も疑っていない。
だが、全員が――
この街の中に、足を踏み入れた。
王都は、彼らを拒まない。
それが、何よりも特徴だった。
(第51話 了)
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