【第5話 光の記憶】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。
※2026/01/11 イラストを追加、更新しました。
【第5話 光の記憶】
――光が、焼けついていた。
夜の闇が、真昼よりも白く照らされていく。
村の屋根が溶け、木々が燃え、声が次々と途絶えていった。
誰かが叫んでいる。
“逃げろ”と、“やめろ”と。
けれど、その声すら光に飲み込まれた。
フォティの小さな手のひらから放たれた光は、
温かさではなく、破壊の熱だった。
すべてを焼き尽くす――純粋すぎる“救い”の形。
そして、視界は真っ白に弾けた。
彼の中の“何か”が壊れる音とともに。
フォティは息を呑んで目を開けた。
息が荒く、額は汗で濡れていた。
「……夢……?」
胸の奥が、痛い。
けれど、理由がわからない。
セナがすぐに駆け寄ってくる。
「大丈夫? また……悪い夢?」
フォティはうなずく代わりに、拳をぎゅっと握った。
「……何かが、燃えてました。ぼくが……」
声が震えた。
セナは黙ってその手を包み、静かに言う。
「それでも、今は生きてる。
それが、神様がくれたもう一つのチャンスなんだよ。」
その言葉に、フォティの目が潤む。
視えない瞳の奥で、光の粒がまたひとつ、瞬いた。
――同じ頃。
夜明けを前に、街は霧に沈んでいた。
ルコールは外套の襟を立て、石畳を歩く。
向かう先はギルド本部。
森での任務報告と、あの“異常な焼け跡”の報告書を出すつもりだった。
だが、通りを抜ける途中で、酒の匂いに足を止める。
薄汚れた看板に“BAR LAGUNA”の文字。
懐かしい声と笑いが漏れていた。
「……先に顔を出しておくか。」
そう呟いて、扉を押した。
中は相変わらず、煙と喧噪で満ちていた。
ルコールはカウンターに腰を下ろし、
グラスを手に、炎のゆらぎを見つめる。
背後から、聞き覚えのある声がした。
「珍しいな、あんたが報告の前に一杯とは。
……ギルドに顔を出す前に寄るなんざ、よほど気にかかることがあったみたいだな。」
その一言に、ルコールはわずかに目を細めた。
「……やっぱり気づいてたか。さすがだな、相変わらず鼻が利く。」
「勘ってやつだ。戦場でお前の足音を聞き分けてた頃と変わらねぇよ。」
ルコールは鼻で笑い、グラスを置く。
「生きてはいる。
ただ、森の様子が変だ。焼け跡が残ってた。
……見たことのねぇ溶け方だ。」
バルドは眉を上げ、懐から一枚の**写真**を取り出した。
焼け野原の中心に、うっすらと白金色の円が焼き付いている。
人影のような形が、残像のように浮かんでいた。
「そりゃ、“普通の火”じゃねぇな。
最近、似たような痕跡が各地で出てる。
共通してるのは……“人が消える”ってことだ。」
「人が、消える?」
「ああ。
死体も影もねぇ。ただ焼け焦げた地面と、白い粉だけが残る。」
ルコールの目が細められた。
「……まるで光に呑まれたみてぇだな。」
「だろ? そしてもう一つ。」
バルドは写真の裏を指で弾く。
そこには、白金色の瞳を象った紋章が薄く焼き付いていた。
「“光の瞳”って呼ばれてる印だ。
裏では“世界救済団体”って連中が関係してるらしい。」
「救済、ねぇ……」
ルコールの口元がわずかに歪む。
「そう名乗る奴らに限って、いちばん多く殺すもんだ。」
そう言い残して、ルコールはグラスを空にし、立ち上がった。
「助かった。借りはまた返す。」
バルドはその背中を見送りながら、低く呟いた。
「……やっぱり動くか。
あいつの勘は、戦場でも冴えてたからな。」
――孤児院。
セナはベッドに座るフォティの髪を撫でていた。
「外、風が強いね。」
「……あの人、帰ってくるかな。」
フォティの言葉に、セナは微笑む。
「ルコールさんなら平気だよ。
あの人、いつも血の匂いを連れて帰ってくるんだから。」
「……血の、匂い。」
「うん。
でもね、その匂いの奥には、ちゃんと“優しさ”もあるの。」
フォティはその言葉を胸の中で繰り返した。
――光の奥には、影がある。
――けれど、影の奥にも、光はある。
そう気づいた時、フォティの指先がかすかに震えた。
掌の奥で、微かな粒子が光る。
セナは驚きながらも、微笑んだ。
「……あたたかい。」
フォティは小さく頷いた。
「……怖くない。もう、光は……怖くないです。」
その言葉に、セナの目が細められた。
外の夜風が、静かにカーテンを揺らす。
ルコールの足音が遠ざかり、世界がまた静寂に包まれた。
――次に訪れる光が、再び誰かを救うのか、
それとも、焼き尽くすのか。
まだ、誰も知らなかった。
(第5話 了)




