【第41話 許可なき道】
ギルド本部の奥にある窓口は、いつもより静かだった。
騒がしさがないわけではない。
ただ、ここでは無駄な声が削ぎ落とされている。
ルコールたちは、すでにギルドマスター直々に調査依頼を受けていた。
書類の上では、これは正式な案件だ。
「調査依頼につきましては、こちらで受理されています」
受付の女性は、机上の書類に目を落としたまま告げた。
「ただし、国境を越える場合は――入国許可証の発行が必要になります」
淡々とした口調。
事務的で、感情は挟まれていない。
「発行自体は可能です。ただ、多少時間がかかります」
「どれくらいだ」
ルコールが短く問う。
「早くて数日。状況によっては、もう少し」
急ぎの調査には、長い。
フォティは黙って聞いていた。
胸の奥に、説明のつかない違和感が残る。
――光が、遠い。
理由は分からない。
ただ、前へ進もうとするほど、何かに遮られている感覚があった。
「許可証は、後からでも届くんだな」
ルコールが言う。
「はい。発行され次第、ギルド経由で現地支部へ連絡は回せます」
それで十分だった。
「じゃあ、それでいい」
ルコールは即断する。
「俺たちは先に行く」
待つより、動く。
それがこの男の選択だった。
◇ ◇ ◇
格納区は、相変わらず広く、静かだった。
中央に鎮座するスカイハウルは、
鋼の獣の名にふさわしい威圧感を放っている。
飛べば早い。
越えられない距離は、ほとんどない。
だが――
「使えねぇな」
バルドが先に口を開いた。
「検問で引っかかる。内部を見られたら終わりだ」
改修痕。
武装。
非正規の部品。
どれも潜入調査には致命的だった。
「あれは“入る船”じゃねぇ」
バルドはスカイハウルを見上げて続ける。
「帰ってくる船だ」
ルコールは否定しなかった。
ただ、黙ってその船を見つめる。
近道はある。
力を示す手段もある。
だが、今回はそれを選ばない。
「……地を行く」
短く、それだけ言った。
フォティもまた、空を仰ぐ。
遠い。
だが――
進むべき光は、地の先にある気がした。
選択は、終わっている。
行く準備も、整っている。
あとは――
歩くだけだった。
◇ ◇ ◇
格納区の奥。
簡易医療区画は、静まり返っていた。
明かりは落とされ、
白いシーツだけが、淡く浮かんでいる。
――微かな音。
息を吸う、小さな音。
指先が、わずかに動いた。
ゆっくりと、瞼が開く。
ぼやけた視界。
知らない天井。
知らない匂い。
「……」
声は、出なかった。
けれど――
胸の奥で、何かが確かに揺れていた。
遠ざかっていく気配。
動き出そうとする光。
それを、追うように。
少女は、一人で目を覚ました。
(第41話 了)
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