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【第4話 血の匂い】

初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。

月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。

※2026/01/11 イラストを更新しました。

【第4話 血の匂い】



 朝の光が、窓から差し込んでいた。

 木製の床に反射したそれは、まだ頼りなく、夜の残滓をかすかに映している。


 フォティは光を“感じて”いた。

 まぶしさも、輪郭もない。

 ただ、肌を撫でる温度の揺らぎで、朝が来たことを知る。


 身体はまだ重く、呼吸をすれば胸の奥が痛んだ。

 全身の奥に、何かが燃え残っているようだった。


 ――ここはどこだ。

 ――自分は……誰だ?


 考えようとした途端、頭の奥で鈍い痛みが走る。

 名を思い出そうとしても、真っ白な光が脳裏を覆い尽くす。

 何かが焼け落ちたあとのように、空っぽだった。


 隣から、湯気の立つ気配と柔らかな声が届く。


「おはよう、フォティ。……まだ無理しちゃだめ」


 セナの声は、春の水のように優しかった。

 その声の方へと、フォティはゆっくり顔を向ける。

 額に当たる指先があたたかい。


「……ここは……」


「孤児院。ルコールさんが運んでくれたの。三日も眠ってたんだよ」


 フォティは息をのみ、唇を震わせる。


「ぼく……名前……」


「え?」


「思い出せないんです。……なにも。」


 セナの手が、そっとフォティの頬に触れる。

 彼女の指は震えていなかった。


「じゃあ、ゆっくり思い出せばいいよ。焦らなくていいの。

 今は、生きてるだけで充分だから。」


 その言葉が、光のように胸に染みた。


 セナが何かを差し出す。湯気の匂いで、それが湯呑だとわかる。

 両手で受け取るフォティの指が震えた。


「怖かったんだね」

 その一言に、フォティは小さく息を呑む。


 セナは続けた。


「泣いてもいいよ。怖いときは、ちゃんと泣くの」

「……ぼく、泣いてない……」

「うん、泣いてない。偉いね」


 セナの声が、微かに笑った。

 フォティは、光が怖くなくなっていることに気づいた。


 ――扉が軋む音がした。


 重い足音。

 フォティは気配で、誰が来たのかすぐにわかる。


「起きたか、坊主」


 低く、掠れた声。ルコールだった。

 分厚い外套から、鉄と血の匂いが漂ってくる。


「……はい」


挿絵(By みてみん)


 ルコールは短く頷く気配を見せ、椅子の軋む音が響いた。

 沈黙のあと、セナが気を利かせて立ち上がる。


「……セナ」

「なに?」

「その子の世話、もう少し頼む。ギルドがきな臭い」

「……また、戦いに行くの?」

「ああ。血の匂いが、戻ってきやがった」


 ルコールの声が低く沈む。

 フォティにはその背が見えなくても、

 そこに立つ影が、どれほど大きいかがわかった。


「……僕も、行けますか」

「お前はまだ立てねぇ。いいから寝てろ」


 短い返事。けれど、その声には妙な優しさがあった。


 外套が擦れる音。扉が開く。

 その背中を感じながら、フォティは胸の奥に湧き上がる痛みを噛みしめた。


 セナが窓辺に立ち、風を感じているのが気配でわかる。


「……あの人、いつも誰かを助けてばかり」

「……だから、強いんだ」

「違うよ、フォティ。あの人は、優しいの」


 その言葉を聞いたとき、フォティの心にひとつの想いが灯った。


 ――“フォティ”。


 ルコールが呼んだ、その名。

 セナが笑いながら、そう呼んだ。


 自分の名前が空っぽでも、

 誰かがくれたその音が、今は何よりも温かかった。


「……ぼく、フォティでいいです。」


 セナが少し驚いたように息を呑む。

 けれど、すぐに穏やかに頷いた。


「うん。フォティくん、ね。」


 その瞬間、胸の奥の痛みが少しだけ和らいだ。

 外では、風が草原を揺らしている。

 けれど、その風に混じって、確かに漂っていた。

 ――血の匂いが。



(第4話 了)

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― 新着の感想 ―
毎話毎話の挿絵が好きなんだよね。場面がよく想像出来るのが本当に良い。
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