【第39話 鋼の未完成】
格納区の作業台には、すでに選別された部品が並んでいた。
青白い導線を持つ制御核。
外部増幅用の接続フレーム。
補助推進を想定した小型出力管。
――昨夜、光を返した“残骸”たちだ。
その中央に、アッシュフォールが置かれている。
欠けた刃。
歪んだ内部機構。
焼けた導管。
武器としての疲労が、隠しようもなく残っていた。
バルドは何も言わず、分解を始める。
刃基部を外す。
制御ユニットを引き抜く。
可動部のズレを測り、数値を書き留める。
致命的ではない。
だが、余裕もない。
選定済みの制御核を仮接続し、出力を従来想定値まで落とす。
……起動する。
だが、導線の光は揺らぎ、出力値が一定に保てない。
「低すぎるか……」
一段階、出力を上げる。
即座に警告灯。
高すぎる。
下げれば不安定。
上げれば危険域。
どこにも“使える帯域”がない。
可動域を最小に絞り、再起動。
――動いた。
刃は静かに滑り、制御核の光も一瞬だけ揃う。
バルドは、ほんの一拍だけ息を止めた。
だが数秒後、
出力が落ち始める。
減衰。
警告。
即座に停止。
「……足りねぇな」
独り言のように呟いた、その時。
「……バルド?」
背後で扉が軋んだ。
フォティだった。
少年は作業台に近づき、光る制御核を不思議そうに見つめる。
「……これ、まだ動く?」
「ああ。一瞬だけな」
バルドは再接続し、起動させる。
やはり、不安定だ。
フォティは少し迷ってから、そっと制御核に触れた。
光が、揃った。
揺れていた導線が静まり、
出力値が、一定に保たれる。
警告灯が消えた。
バルドは、無言で数値を見つめる。
従来出力のまま。
何も上げていない。
安定している。
フォティが驚いたように指を離す。
光が乱れ、再び減衰。
バルドは停止させ、初めてフォティを見た。
「……なぁ」
職人の声だった。
「今度は、力を籠めるんじゃねぇ」
格納区を見渡し、続ける。
「この部屋に、回してみろ。
流すだけだ。増やすな」
「……循環、させるってこと?」
「そんな感じだ」
フォティは目を閉じ、静かに息を整えた。
胸の奥の温かさを、外へ押し出さない。
ただ、巡らせる。
次の瞬間。
格納区の空気が、微かに震えた。
床に残る古い導管。
壁に埋め込まれた接続跡。
忘れられていた回路が、淡く光り始める。
部屋全体を、薄い光が巡った。
「……ほう」
バルドは周囲を見渡し、息を詰める。
その時だった。
作業台の端、
積み上げられた残骸の奥で――
ひとつだけ、光り方の違う部品があった。
他が反応する中、
それだけが、力を“溜めている”。
バルドは無言でそれを引き抜いた。
小型の円筒部品。
外装は傷だらけで、廃棄寸前。
だが内部では、循環した光が逃げずに留まっている。
「……これだ」
確信の声だった。
作業台に置き、
アッシュフォールの基部へ仮接続する。
フォティを見る。
「今度は、ここにだけ籠めてみろ」
フォティは小さく頷き、
胸の奥の温かさを一点へ寄せた。
次の瞬間。
アッシュフォールの導線が、
本来あるべき光量で輝いた。
過剰でもない。
不足でもない。
刃が、静かに震える。
機構が、悲鳴を上げない。
――応えている。
バルドは、はっきりと息を吐いた。
「……そうか」
力は直接流れ込まず、
一度、部品で受け止められてから循環している。
だから壊れない。
だから引き出せる。
「こいつは、供給用じゃねぇ」
低く言う。
「力を溜めて、整えて、返す――
エネルギーコアだ」
フォティは、ゆっくりと目を見開いた。
「……これがあると?」
「お前が力を籠めた時だけ、
アッシュフォールは本来の性能を出せる」
それ以上は言わなかった。
バルドはコアを外し、
布の上へ大切そうに置く。
アッシュフォールは、再び沈黙する。
まだ未完成だ。
だが――
引き出す方法だけは、見つかった。
火花が散る。
職人の夜は、まだ終わらない。
(第39話 了)
よろしければ、評価と気に入っていただければブックマークをお願いします。
執筆の励みになります。




