【第32話 隠された失踪】
――未明の風が街を吹き抜けていた。
空はまだ黒い。
だがスカイハウルの蒸気だけが白く滲み、まるで夜を裂く狼煙のように揺れている。
「フォティ。ミラを頼む。」
ルコールは出発前、船内の二人を見て言った。
ミラは深く眠ったまま。
フォティは彼女のそばで膝を抱え、不安げに揺れる光を胸に抱いていた。
「……気をつけて、ルコ兄。」
「ああ。すぐ戻る。」
それだけ言い残し、ルコールは外套を翻しバルドと共にギルドへ向かった。
◇ ◇ ◇
ギルドはまだ開館前。
受付も職員もいない静けさだけが漂っていた。
薄暗い廊下を進み、ルコールが迷いなく扉を叩く。
「誰だ……こんな時間に――」
「ルコールだ。」
一拍。
扉がわずかに開き、半分眠そうだったギルドマスターの瞳が一瞬で鋭さを帯びた。
「スカイハウルで乗りつけた時点で、ただの報告のわけがねぇ。
依頼も受けてねぇあんたが、こんな時間に来る理由は一つだ。」
「……話が早いな。」
「で? 何が起きた?」
バルドが乾いた笑みをこぼした。
「ほらな。こいつ、耳と勘だけは戦争兵器なんだよ。」
「黙れ、バルド。で――何を持ってきた?」
◇ ◇ ◇
ルコールは外套の内側から、慎重に包みを取り出した。
白い童女服。
胸元には【MI-07】。
ミラ本人はいない。
だが服の“状態”だけで、その子どもがどれほど危険な場所にいたかがわかる。
ギルドマスターは手を伸ばしかけ、途中で止めた。
「……触れていい代物じゃなさそうだな。」
「だろうよ。」
ルコールの声は重い。
「第七支部の跡地で拾った。“生きてる子ども”の遺留品だ。」
「……生きてる?」
「ああ。スカイハウルに寝かせてある。」
ギルドマスターの顔つきが変わる。
「お前……教団の跡地で子どもを“保護”してきたのか。」
「保護というか……連れ出した、だな。」
「……ここ最近、各国で失踪が急増してる。
表に出せない報告ばかりだ。だがな――」
ギルドマスターは服のタグを見て、短く息を吐いた。
「【MI-07】なんて番号……ただの誘拐や失踪じゃねぇ。」
◇ ◇ ◇
「で、ルコール。」
低く切り込むような声。
「――ギルドとして動くべき案件か?」
「……依頼を出してくれ。
“保護区周辺の失踪事件調査”。名目はそれでいい。」
「本命は?」
「……セナの行方だ。」
ギルドマスターは深く目を閉じ、ひとつ頷いた。
「理由は聞かねぇ。だが――」
封筒を押し付けてくる。
「これで正式依頼だ。表向きは調査。裏では……教団に喧嘩売る覚悟をしろ。」
「上等だ。」
◇ ◇ ◇
ギルドを出る頃、東の空にうっすらと朝焼けが滲みはじめていた。
「バルド。」
「わかってる。裏は俺の仕事だ。」
情報屋は煙草を指で弾き、肩を鳴らす。
「“保護区”の裏取りだな。教団が隠してるルートを掘り起こす。
……オレの独壇場だ。」
「任せる。気をつけろよ。」
「死に急ぐなよ、相棒。オレは裏から照らす。」
バルドは裏路地へ消えていった。
◇ ◇ ◇
ルコールは静かな街を抜け、スカイハウルへ戻った。
船内に入ると、薄い灯りの下でフォティがこちらを振り向いた。
「……ルコ兄?」
「ああ。帰った。」
ミラはまだ眠り、胸元の布がゆっくり上下していた。
ルコールは二人を見て、低く呟く。
「……次は、お前らを巻き込ませねぇ。」
(第32話 了)
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