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最強のハンター、神の光を拾う。〜滅びゆく世界で俺はもう一度守りたい〜  作者: 蛮ニル
第2.5章 選別の歌

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【第30話 その光は、誰のために】

挿絵(By みてみん)

 ――崩れかけた実験棟の奥で、ルコールは二人の少女を抱きかかえて走っていた。


挿絵(By みてみん)


 非常灯の赤が、まるで血液のように壁を染める。

 天井から落ちる破片が背中をかすめ、熱を帯びた風が肌を灼く。


「兵隊さん……っ、まだ……?」

 セナが腕の中で震えながら声を上げる。


「黙って掴まってろ。出口は近い。」


 言い聞かせるように言うが、胸の奥は荒れ狂っていた。

 ――遅かったら二人とも死んでいた。

――もう、守れない未来を見たくはない。


 その思いだけが、足を動かしていた。


◇ ◇ ◇


 通路の先に影が立ちはだかった。


「返してもらおうか。」


 ラドクリフだった。


 白衣は焦げ、髪も乱れ、それでもその瞳は狂気の光で澄んでいた。

 まるで、己の創造物を迎えに来た神官のように。


「それは俺が保護した子だ。」

「いいや。彼女らは“素材”だ。未来を創り替えるための光だよ、ルコール軍曹。」


「素材だと……上等だな。なら、この手で奪い返すだけだ。」


 低い声で返すと、ラドクリフは笑った。

 静かで、薄ら寒くて、それでいて心の底から楽しそうな笑みだった。


「なら――試すといい。君の“生”がどこに属するか。」


 その時だった。


 背後の闇が、形を取って現れた。


「そこまでだ。軍曹。」


 クロウ。


 銀灰の髪が、非常灯の赤に照らされて不気味に輝く。

 静かなのに圧がある。殺意でも怒気でもない。

 ただ、“任務のために立ちはだかる壁”という存在そのもの。


「……チッ。よりにもよってお前か。」

「一度この手で手合わせしてみたかった。戦場の“死神”と。」


「生憎な。こっちは子守中だ。」


 ルコールは二人――セラとセナ――を背にかばい、銃剣を構えた。


◇ ◇ ◇


 金属と金属がぶつかる硬質な音。


クロウの一撃は、重さも、速さも、迷いもない。

 まるで時間ごと相手を切り裂くような、研ぎ澄まされた戦闘技術。


 一方で、ルコールの動きは獣のようだった。

 計算ではなく、生存のための殺意そのもの。


 火花が散り、崩れた柱が軋む。


「……強いな。」

「お互い様だ。」


 ほんの一瞬、交差する視線。

 そこには敵意すらなかった。ただ、戦場で生き延びてきた者どうしの理解。


 だからこそ――この場でぶつかるしかなかった。


「どけッ!!」

「拒否する。」


 互いの足跡が床を砕き、視界が揺れる。

 クロウは後退しながら冷静に告げた。


「時間をかければ援軍が来る。逃げ道はない。」


「……それでも行く。」


 ルコールは奥歯を噛み締めた。


 ――この子たちを失うくらいなら。

 ――もう二度と、あの歌を泣き声に変えさせない。


 その想いが、拳に熱を生んだ。


◇ ◇ ◇


「……兵隊さん……」


 セラの声だった。


 ルコールが振り返った瞬間、彼女の身体が震えているのがわかった。


 涙ではない。恐怖でもない。


 **感情そのものが熱になって燃え上がっていた。**


「セナは……わたしが……守るの……っ!」


 光が溢れた。


 小さな身体の奥底から、まるで“心臓を破裂させるような”強さで。


「セラ、やめ――!」


 止める暇はなかった。


挿絵(By みてみん)


 青白い閃光が爆ぜ、空気そのものを巻き込みながら炸裂した。


 壁が歪み、床がひび割れ、クロウとラドクリフが咄嗟に身を翻す。


 衝撃が周囲を吹き飛ばし、瓦礫が滝のように崩れ落ちた。


 ――光が収まった時、セラは立っていた。


 だが。


 その膝から下は、粉のように消えていた。

 光の反動が、小さな身体を蝕んでいた。


 床には、焼けついた「足跡だけ」が黒く残っていた。


◇ ◇ ◇


「セラ……!?」


「兵隊さん……大丈夫。

 まだ……歌える、から。」


 その笑顔は、あまりにも無理に作られたものだった。


「セナ……泣かないで……」


 セナは崩れ落ち、嗚咽を上げた。


「やだ……やだよ……一緒に……帰るんじゃないの……?」


「帰るよ……ううん……また……会えるよ。」


セラは小さな手を伸ばし、セナの頬をそっと撫でた。


「……また……一緒に……歌おうね……?」


 震える声。


 でもその瞳だけは、強く、まっすぐだった。


「兵隊さん……お願い。

 セナを……連れてって……」


 ルコールは答えられなかった。

 喉が焼けたように言葉が出ない。


 これが最期なのだと、わかってしまったからだ。


「……絶対に、守る。」


 ようやく搾り出したその言葉に、セラは小さく笑った。


◇ ◇ ◇


 その時――


 セラの足元の床が、轟音とともに崩れた。


挿絵(By みてみん)


「――ッ!!」


 ラドクリフが迷いなく飛び込んだ。


「貴重な素材だッ!!」


 狂気の叫び。

 落下するセラに手を伸ばす白衣。


 その背中を見て、クロウは小さく息を吐いた。


「……ったく、あのマッドサイエンティスト。研究のことしか頭にねぇな。」


 そう呟くと、クロウは瓦礫の中へと飛び込んだ。


◇ ◇ ◇


「行くぞ!」


 ルコールはセナを抱き寄せ、崩れゆく通路を全力で駆け抜けた。


 背中で、誰かの祈りのような声が聞こえた気がした。


 ――また、歌おうね。


 その囁きだけが、光のように胸に残った。


(第30話 了)

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