【第3話 孤児院の朝】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。
鉄は熱いうちに打とうって感じなだけです。
※2026/01/11 イラストを新規で更新しました。
【第3話 孤児院の朝】
――夜が明けた。
焼けた森を抜け、街道を駆け抜ける頃には、空が薄い桃色に染まり始めていた。
ルコールの背には、まだ熱を放つ少年。
光は収まったが、身体の奥で何かが燃え続けているようだった。
目的地は一つ。
孤児院。
戦争孤児を匿い、彼自身も支援してきた静かな避難場所だ。
木の扉を叩くと、すぐに灯りが点いた。
「……ルコールさん? こんな時間に……」
現れたのは、栗色の髪をひとつに結んだ少女。
薄いショールを羽織り、まだ眠たげな目をしている。
――セナ。孤児院の世話役であり、子どもたちにとって姉のような存在だ。
「悪い。ベッドをひとつ、空けてくれ。」
その声に、セナの表情が引き締まる。
「また……拾ってきたんですか。」
「生きてた。放っとけねぇ。」
ルコールはそれだけ言って、少年を慎重にベッドへ降ろした。
シーツがすぐに焦げと血で染まる。
セナは慣れた手つきで水を汲み、清潔な布を取り出す。
「ひどい火傷……でも、脈はあります。」
セナの声は震えていた。
ルコールは黙って腕を組み、壁にもたれかかる。
少年の胸が、微かに上下していた。
「……目が……」
セナが少年の瞼を開き、息を呑む。
瞳は白く濁り、焦点を結ばない。
「見えねぇ。」
ルコールが短く答えた。
その言葉に、セナは唇を噛む。
「それでも、生きてる。それだけで充分だ。」
そう言って、ルコールは外套を脱ぎ、椅子に腰を下ろした。
焦げた金属の匂いが部屋に残る。
窓の外からは、鳥の鳴き声が聞こえ始めていた。
セナは少年の額に布を置きながら、優しく囁く。
「……大丈夫。もう怖くないよ。」
その声に、少年の指先がかすかに動いた。
ルコールがそれに気づき、目を細める。
「……まだ、戦ってやがる。」
セナが小首を傾げる。
「え?」
「生きることを、諦めちゃいねぇってことだ。」
沈黙。
朝の光がカーテンの隙間から差し込み、ベッドの上に細い線を描いた。
その光が、少年の頬を撫でる。
その瞬間、彼の唇が、わずかに動いた。
「……ひかり……」
セナとルコールの視線が重なる。
ルコールは低く息を吐き、笑った。
「……覚えてやがったか。森でそう呼んだからな。」
「呼んだ……んですか?」
「仮に、な。名もねぇままじゃ呼びづらいだろ。」
セナは微笑んだ。
その瞳に、安堵と優しさが灯る。
「……いい名前ですね。」
ルコールは腕を組み直し、言葉を継ぐ。
「“フォティ”。光って意味だ。
このガキには、それが一番似合う。」
セナは静かに頷く。
「フォティ……フォティくん、ね。」
その声を聞いた少年の眉が、ほんの少しだけ緩んだ。
呼吸が落ち着き、顔色がわずかに戻る。
ルコールはそれを見て、立ち上がった。
「寝かせとけ。明日は医者に診せる。」
「はい。」
セナが返事をする。
ルコールは扉の前で立ち止まり、もう一度振り返った。
朝の光が、ベッドの上に落ちる。
フォティの胸が穏やかに上下していた。
「……生き延びろよ、“光の坊主”。」
呟きは小さく、それでも確かに届いた。
少年の指が、布の端をぎゅっと握る。
(第3話 了)




