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最強のハンター、神の光を拾う。〜滅びゆく世界で俺はもう一度守りたい〜  作者: 蛮ニル
第2.5章 選別の歌

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【第29話 暴走する闇の胎動】

挿絵(By みてみん)

 ――その日、ルコールは司令部の一室にいた。


 保護区画の閲覧権限。

 いつもなら軍医や参謀だけが扱える、極めて限定的な許可だ。


「新設実験ラインの攻勢データだ。

 お前の“前線経験”が必要でな。」


 クロウの言葉は淡々としていたが、その奥にある期待は濃かった。

 死神と呼ばれるほどの突破力。

 彼の“眼”と“嗅覚”だけは、実験と戦術の双方で高く評価されている。


「……了解。」


 ルコールは最低限の返事をし、端末に視線を落とす。

 戦場の残骸。

 祈りの器の分解記録。

 魔物因子との接合試験……。


 どの画面にも、血と鉄と絶望が貼りついていた。


 ――これが、俺が送ってきた“保護者”の末路かよ。


 胸の奥に何度目かの苛立ちが走った、その時だった。


 端末にノイズが走った。

 同時に、司令部のメインモニターがちらつく。


 バチッ。


 赤い警告灯が点滅し、司令室がざわめきに包まれた。


『警報。実験区画Bにて制御不能事象――』


「……暴走か。」


 ラドクリフが、うっすら笑った。

 研究者らしい、狂気じみた興味の光が瞳に宿る。


「試作融合体《Ma-β3》だな。

 ちょうどいい、データが欲しいところだった。」


「てめぇ……人が死んでんだぞ。」


「素材だよ。君も知ってるだろう?」


 怒鳴り返す余裕はなかった。

 次の瞬間、クロウが鋼の声で命じた。


「ルコール軍曹。近い。

 侵入許可パスキーを発行する。B区画へ急行し、制圧に回れ。」


 軍曹の肩章に、電子キーが投げ渡される。

 命令というより、“最適解の提示”だった。


「わかったよ、作戦屋。」


 ルコールは外套を払って駆け出した。


◇ ◇ ◇


 実験棟の廊下は、すでに地獄だった。


 焦げた臭い。

 赤い非常灯。

 崩れたパイプから蒸気が噴き出し、どこかで誰かが泣き叫ぶ声。


「セナ、逃げて――!」


 震えた叫びが、廊下に飛び散った。


 耳が覚えている声だった。

 優しい歌声。

 それとは似ても似つかない、悲鳴に似た叫び。


 セラだ。


 角を曲がると、飛び込んできた光景にルコールは息を呑んだ。


挿絵(By みてみん)


 ――小柄な少女が、必死に両腕を広げていた。

 ――その背に隠れるように、セナが震えていた。

 ――その正面に、暴走体がいた。


 皮膚が裂け、魔物のような角と牙が飛び出し、

 それでも人間の名残を残した、悲惨な融合体。


「下がってろ……!」


 ブルッ、と暴走体の首が跳ねた。


 疾走する影。

 ルコールは地を蹴り、銃剣を横へ。


 刃と爪がぶつかり、衝撃が腕を伝って骨を軋ませた。


「……っ、ぐ!」


 暴走体は、泣いていた。


 喉が裂けるような声で、ひとつの単語だけを繰り返していた。


「……いや……いやだ……

 こわい……やめて……

 ……もう、やだァ……!」


 人間の声だった。


 この“兵器”が、どんな目に遭ってきたのか――

 想像ではなく、現実として突きつけられる悲鳴。


 ルコールは、刃を深く構え直した。


「――眠れ。」


 それ以上は、苦しませない。


 刃が一閃。

 魔物の咆哮が途中で途切れ、暴走体は崩れ落ちた。


◇ ◇ ◇


「ルコ兄……?」


 消え入りそうな声が背後から届いた。


 振り返ると、セナが震えた目でルコールを見上げていた。

 その呼び方は、知らぬ間に彼女の口から滑り落ちたもの――

 **無意識が選んだ“救いの形”だった。**


「ルコ兄……怖かった……!」


 次の瞬間、セナは駆け寄ってきて、ルコールに縋りついた。

 頬を濡らした涙が、布に染みていく。


 その後ろで、セラは歯を噛み締めていた。

 震えながらも、まっすぐにルコールを睨む。


 その瞳の奥には――恐怖よりも強い何かが燃えていた。


「……私が……守らなきゃ……」


 セラの声は小さかったが、確かな意志があった。

 セナを抱く腕に力を込めるようにして、続けた。


「セナを守るのは、私……

 絶対に……」


 その言葉は、ルコールの胸に突き刺さる。


 ――守るべきは、ここにいた。

 ――この世界で生きる資格があるのは、兵器じゃなく、こいつらだ。


 背後では、警報が鳴り続ける。


 これがただの暴走事故で終わらないことは、ルコールにもわかっていた。


(……次は、こいつらが“素材”にされる番だ。)


 その想像だけで、喉の奥が焼けるように苦くなる。


「行くぞ。ここはもう安全じゃねぇ。」


挿絵(By みてみん)


 ルコールは二人を抱き寄せ、崩れた通路の奥を見据えた。


 ――ここから三人で抜け出す。

 その決意が胸に固まった瞬間だった。


(第29話 了)

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― 新着の感想 ―
異形の姿に変えられても、大して強くなくてただただ尊厳を踏み躙られている感じが悲惨そのもの。
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