【第2話 沈黙の少年】
初執筆、初投稿、良い歳したおっさんなので完走できるように長い目で見守ってください。
月曜日が基本固定休なので、月曜日更新を目指していきます。
月曜日更新とは言ったが更新しないとは言っていない。
※2026/01/11 イラストを描き直しました
【第2話 沈黙の少年】
夜が明けかけていた。
森を覆っていた白光は消え、濃い煙と焦げの匂いだけが残っている。
焼け落ちた木々は根から倒れ、地面はところどころガラス状に固まっていた。
雷に何度も打たれた跡――そんな比喩では足りない。ここ一帯の“理”そのものが、書き換えられた。
その中心に、少年が倒れていた。
ルコールは銃剣を下ろし、慎重に近づく。
服は焼け、髪は煤け、皮膚の下を微細な光が血のように流れている。
異様だ。だが、息はある。
「……生きてるな」
首元に触れると、脈は不安定で熱は異常に高い。触れた指先を、内側から灯すように光が揺らいだ。
ルコールは外套を脱ぎ、裂いて即席の包帯にする。肩、脇腹、手首。要所だけでも冷やして止血する。
「聞こえるか」
応答はない。喉が乾いて声にならないのか、唇だけがわずかに震えた。
――置いていけ。
――関わるな。
そんな声が、戦場帰りの本能のどこかで囁く。
ルコールは舌打ちした。
「……俺は、そういうのが一番嫌いなんだよ」
躊躇は終わりだ。少年を抱き上げる。軽い。あまりにも軽い。
背負った瞬間、肩口がじんと温かくなった。光が染み、血潮みたいに鼓動と同じリズムで明滅する。
焦げた森を抜ける。足裏でガラス化した土が、ぱきりと鳴った。
「どこの誰だ、お前は」
もちろん答えはない。ただ、呼吸に合わせて胸の奥の光が点滅を続ける。
ふう、と息が漏れた。
「……呼びづらいな」
名前も素性も分からない。だが、こいつは“光”で俺を救った。
ルコールは少年の髪についた灰を払いつつ、ぼそりと呟く。
「仮に……そうだな。“光の坊主”でいいか」
そのときだ。背中で、小さな声がした。
「……ひかり……」
足が半歩だけ止まる。振り返っても、少年は眠ったまま。夢の底で迷子になっている顔だ。
空耳かもしれない。けれど、その一音は耳から離れなかった。
「覚えてたら、そのままでいいさ。忘れてたら……そのとき考えろ」
ルコールは歩を進める。東の空が白み始め、焼け跡の上を朝靄が這った。
街道に出る頃、背中の重みがほんの少しだけ軽くなった気がした。
木柵を越え、石畳の外れへ。目的地は決まっている。孤児院。
ルコールが任務の稼ぎを注いで守ってきた、小さな避難場所。
「死ぬなよ」
背に向けた独り言に、かすかな吐息が返った。
夜と朝の境目で、光の名も知らない子どもを抱え、男は街へと消えていく。
(第2話 了)




