【第19話 焔の道標】
――夜が明けきる前の静寂。
風が止み、山肌を照らす陽がまだ低い。
焦げた地に立つ三人の影が、ゆっくりと重なった。
ルコールは腰の銃剣を軽く払った。
刃の表面についた焼け跡が光を反射して、淡く赤く滲む。
その視線の先には、瓦礫の中に立ち尽くす僕――フォティ。
「……この辺りは落ち着いたか。」
ルコールの声は低く、乾いていた。
けれどその響きは、不思議と柔らかかった。
僕はゆっくりと頷く。
「はい。……でも、僕……」
「やったことに意味を探すな。」
その言葉が遮るように落ちた。
ルコールの瞳は、戦場の空のように静かだった。
「死んだもんは戻らねぇ。だが――次に誰かを救えるなら、それでいい。」
僕は唇を噛み、拳を握った。
震えは止まらなかったけど、その瞳に光が宿る。
胸の奥が熱くなった。僕は、もう逃げたくなかった。
そのやり取りを、少し離れた場所でバルドが見ていた。
ポケットから煙草を取り出し、歯で咥える。
指先の火打ち石がカチリと鳴った瞬間――
火花が散り、煙草の先が赤く灯る。
「……相変わらずだな、死神。」
吐き出した煙が、空へと溶けていく。
「お前が通った後は、いつもこうだ。」
「派手でも、生きてりゃ上等だ。」
その言葉に、バルドはふっと口角を上げた。
煙草の先が静かに燃え進み、風の中で灰を散らす。
空が白み始め、遠くで鳥の声がした。
「で、これからどうする、死神。」
バルドの問いに、ルコールは短く息を吐く。
風が外套を揺らした。
「決まってんだろ。――“教団”を追う。」
「まだ終わっちゃいねぇって顔だな。」
「ああ。セナを攫ったやつらを、放ってはおけねぇ。」
その名を聞いただけで、胸の奥が熱を持った。
あの優しい声、笑顔、温もり。
今はもう、遠い光のように感じる。
「……行くんですか、また。」
「お前はここで休んでろ。」
ルコールの声は冷静だったが、その奥に優しさがあった。
「お前は、まだ自分の力を制御できねぇ。無理すりゃ焼け死ぬ。」
僕は一度、唇を結んだ。
かつてなら、その言葉に従って俯いていただろう。
けれど今は違う。
目を閉じると、あの日――光の中で伸ばされた手と、
泣きながら「生きて」と言った声がよみがえる。
「それでも……行かせてください。」
声は震えていたけれど、もう恐怖ではなかった。
胸の奥で、確かな炎が燃えている。
「僕は……彼女を取り戻したい。
あの人が、僕に“生きろ”って言ったから。」
ルコールはしばらく沈黙し、やがて小さく笑った。
「……言うようになったじゃねぇか。」
僕は目を見開いた。
その言葉の中に、あの日の戦場とは違う温度を感じた。
ルコールは背を向け、外套の襟を立てた。
「いいだろう。行くぞ、“光”。」
その言葉に僕は頷き、胸のペンダントの残滓をそっと握った。
バルドが短く息を吐き、煙草を地に落として踏み消す。
「まったく……血の気の多い連中だ。」
そう言いながらも、彼の声にはどこか嬉しそうな色があった。
――三人の足音が、焼けた地に再び刻まれていく。
風が流れ、焦げた匂いが遠ざかる。
煙の跡に、ひとすじの光が射した。
(第19話 了)
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