表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強のハンター、神の光を拾う。〜滅びゆく世界で俺はもう一度守りたい〜  作者: 蛮ニル
第4章 合理の名で壊れるもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/103

【第102話 白翼の檻】

挿絵(By みてみん)

 『――君の姫がお目覚めのようだ』


 静かな声だった。


 楽しんでいるわけでもない。

 嘲っているわけでもない。


 ただ、事実を告げる声。


 その平坦さが、何より悪趣味だった。


◇ ◇ ◇


 セナの身体が、ゆっくりと浮き上がる。


 拘束具は外れていない。

 だが、もはや必要がないと判断されたのだろう。


 金属の固定具が自動で解放される。


 音は小さい。


 だが、その小さな「カチリ」という音が、

 何かの終わりを告げた。


◇ ◇ ◇


 セナの瞳が開く。


 淡い水色ではない。


 白金。


 冷たい、無機質な光。


 焦点は合っている。

 だが――そこに“誰か”がいる気配は薄い。


 呼吸は安定している。


 痛みも、痙攣もない。


 変異は完了した。


◇ ◇ ◇


 ゆっくりと、セナの身体が拘束台から離れる。


 足先が床に触れない。


 重力に従わない。


 白い室内で、

 彼女だけが静かに浮いている。


 そして――


 背中が、裂けた。


◇ ◇ ◇


 音はなかった。


 血も、ほとんど飛ばない。


 皮膚の内側から、

 白い光が溢れる。


 その光が形を持つ。


 羽。


 羽毛の一本一本が、淡く輝く。


 純白ではない。


 白金に近い白。


 神話の絵画のように整いすぎた翼。


挿絵(By みてみん)


 二枚。


 ゆっくりと広がる。


◇ ◇ ◇


 栗色の髪は、完全に消えた。


 残っていない。


 すべてが白。


 肩まで流れていた柔らかな色は、

 今や光を反射する無機質な白へと塗り替えられている。


 それでも。


 顔立ちは変わらない。


 幼い頃から知っている輪郭。


 唇の形。

 睫毛の長さ。


 人のままだ。


◇ ◇ ◇


『成功だ』


 クロウの声。


『他の変異体とは違う』


『形状安定率、極めて高い』


『君の姫は、奇跡的に“原型”を残した』


◇ ◇ ◇


 ルコールは答えない。


 視線を逸らさない。


 目の前の存在が、誰なのかを確かめ続ける。


◇ ◇ ◇


 セナが、ゆっくりと首を動かす。


 視線が、ルコールを捉える。


 その瞳は冷たい。


 だが――


 ほんの一瞬。


 ほんの一瞬だけ、

 揺れた。


◇ ◇ ◇


 セナの奥底。


 深い、水の底のような場所。


 そこに“意識”はある。


(……ここは)


 身体が動かない。


 命令が通らない。


 声が出ない。


 目は見える。


 音も聞こえる。


 だが、自分の身体ではない。


(……帰りたい)


 強く思う。


 あの場所へ。


 孤児院へ。


 木漏れ日の下へ。


 セラの笑い声が響く場所へ。


 兵隊さんの背中のある場所へ。


 帰りたい。


 ただ、それだけを。


◇ ◇ ◇


 その願いが、形を留めた。


 他の変異体は、骨格が歪む。

 皮膚が裂ける。

 顔が崩れる。


 だが、セナは違う。


 願いが、原型を守った。


 人であろうとする意志が、

 怪物の完成度を歪ませた。


◇ ◇ ◇


『興味深い』


 クロウが呟く。


『完全な兵器にはならなかった』


『だが不完全というわけでもない』


『むしろ――』


 一拍。


『“神話的”だ』


◇ ◇ ◇


 セナの翼が、静かに羽ばたく。


 風が起きる。


 白い室内の空気が波打つ。


 魔力が満ちる。


 圧力が増す。


 ルコールの外套が揺れる。


◇ ◇ ◇


 セナの右手が、ゆっくりと上がる。


 無意識の動き。


 命令によるもの。


 白金の光が掌に集まる。


 球体。


 高密度の光。


 それは“魔法”と呼ぶには、

 あまりに質量を持っていた。


◇ ◇ ◇


 奥底で、セナが叫ぶ。


(ちがう)


 やめて。


 撃ちたくない。


 傷つけたくない。


 でも、身体は止まらない。


◇ ◇ ◇


 ルコールは動かない。


 避ける構えを取らない。


 ただ見ている。


 セナの目を。


◇ ◇ ◇


 白金の光が、収束する。


 発射直前。


 その瞬間。


 光が、揺らいだ。


◇ ◇ ◇


 セナの瞳の奥で、

 小さな波紋が走る。


 完全支配には至っていない。


 意識は、沈んでいるだけ。


 消えてはいない。


◇ ◇ ◇


 光が、逸れる。


 ルコールの横をかすめ、

 白い壁を抉る。


 爆ぜない。


 溶ける。


 壁が、飴のように融解する。


◇ ◇ ◇


『……抵抗か』


 クロウの声が、わずかに低くなる。


『面白い』


『君の姫は、まだ抗う』


◇ ◇ ◇


 セナの身体が震える。


 翼が大きく広がる。


 光が暴れる。


 制御が乱れる。


 兵器としては不安定。


 だが――


 それは、人が残っている証。


◇ ◇ ◇


 ルコールが、初めて口を開く。


「……セナ」


 低い声。


 命令ではない。


 呼ぶ声。


◇ ◇ ◇


 セナの瞳が、再び揺れる。


 奥底で、涙が滲む。


(……聞こえる)


 帰りたい。


 まだ、帰れる。


 あの声の方へ。


◇ ◇ ◇


 だが、次の瞬間。


 光が強制的に増幅される。


挿絵(By みてみん)


 制御回路が介入した。


 クロウの“合図”だ。


 抗う意識を押し潰すための。


◇ ◇ ◇


『さあ、見せてもらおう』


 クロウの声が響く。


『君が奪い返すのか』


『それとも――』


 白い翼が、大きく広がる。


 白金の圧力が空間を満たす。


 神の使いのような姿。


 だが、その奥底で、


 少女が、帰りたいと泣いている。


◇ ◇ ◇


 白翼の怪物が、ゆっくりとルコールへ向き直る。


 完全な怪物ではない。


 完全な人間でもない。


 その中間。


 祈りで形を保った存在。


◇ ◇ ◇


 ルコールは、目を逸らさない。


 狩人の目でありながら、

 ただ一人の少女を見つめる目。


「……迎えに来た」


 それだけを言う。


◇ ◇ ◇


 白い室内で、

 翼が羽ばたく。


 光が満ちる。


 戦いは、始まる。


(第102話 了)


※他作品も連載中です。

勤労に感謝を。働き続けた男の、転生スローライフ

https://ncode.syosetu.com/n1113lt/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ