【第1話 光の咆哮】
※10/28 第1話修正
※2026/01/10 イラスト修正
【第1話 光の咆哮】
夜は静かに、獣の息を殺していた。
湿った森の中、風は止み、空には月さえない。
その闇を切り裂くように、一人の男が駆けていた。
黒い外套に身を包み、手には銃剣。
その刃は幾多の血を浴びてもなお鈍らず、夜気を裂くたびにかすかに光を放つ。
男の名はルコール。
ギルドでも名の知れた、孤高のハンターだ。
今夜の依頼は、近隣の村を襲う群生魔獣〈ダスクウォルフ〉の殲滅。
本来なら二人以上で挑むAランク任務。
だが彼は、いつものように一人だった。
「数が多いな……」
闇に沈んだ視界の中で、十数の光点が動く。
狼たちの瞳だ。
低い唸り声が、森の奥で連鎖のように響いた。
ルコールは片膝をつき、呼吸を整える。
銃剣を構え、静かに狙いを定める。
風の音。血の匂い。獣の気配。
長年の経験が告げる――もうすぐ来る。
一頭が飛びかかる。
銃口を閃かせ、引き金を引いた。
短い爆音と共に、火薬の閃光が闇を裂く。
撃ち抜かれた狼が悲鳴を上げて倒れ、群れが一斉に動いた。
「チッ……!」
右腕に牙が食い込み、血が滲む。
痛みを無視し、ルコールは左手で刃を突き立てた。
返り血が頬を濡らす。息が荒い。
しかし群れは止まらない。
闇がうねり、牙と爪が雨のように降り注ぐ。
「クソッ、数が多すぎる!」
瞬間、ひときわ大きな影が森の奥から躍り出た。
〈群れの王〉だ。
鋼のような体躯、赤く燃える瞳。
その咆哮が空気を裂く。
銃剣を構え直し、ルコールは一歩踏み出した。
――だが、その瞬間。
空気が震えた。
何かが、割れたような音。
耳鳴りのあと、世界が一瞬で白く染まる。
夜が――昼より明るくなった。
視界を焼くような光。地面が融けるような熱。
狼たちが悲鳴を上げ、次々と蒸発していく。
空気が焦げ、木々が倒れ、炎ではない“光”が森を覆い尽くす。
ルコールは思わず銃剣を地面に突き立てた。
足元が揺れ、熱気が肌を刺す。
「な……んだ……これは……!」
光はすべてを飲み込み、森そのものを焼いた。
やがて、轟音が止む。
辺り一面、焦げた大地と溶けたガラスの破片。
月明かりのように揺らめく光の粒だけが、静かに降り注いでいた。
ルコールは息を殺し、銃剣を構えたまま立ち尽くす。
敵はいない。
だが、確かに“何か”がいた。
白い光の中心――そこに、小さな人影が見えた。
まだ形も輪郭も定かでない。
けれど確かに、人間の姿をしている。
そして、その“何か”からは、魔法とは異質な力の気配が漂っていた。
「……チッ。何が起きてやがる……」
ルコールは一歩、光へと足を踏み出した。
焦げた地面がパリ、と割れる。
熱風の中、彼はその影を見つめた。
――まだ、それが“人間”だと知る由もなかった。
(第1話 了)




