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第5話 天地を分けた瞬間

 やや奥まった場所へ誘導するように移動して、可能な限り人目につかないところにポジションを取る。


 近くにはたまたま非常口があり、扉に続く通路が奥まっていたため人目を避けることができ、それなりにスペースもあった。万が一の場合にはすぐに逃げ出すこともできる。


 何より、大技を披露するには、そこはもってこいの場所だった。


 倫太郎は背後にめいちゃんを庇うようにして二人組と対峙した。

 予期していなかった事態ゆえに、用意は万全ではない。使えるものは、たまたま手にしていた今日の映画のパンフレットだけだ。


 それなりにページ一枚に厚さがあり、しっかりしたつくりとなっている。確かめるように感じた手触りに、ぎりりと奥歯を噛み締めた。


 せめて、もう少し薄いものであれば……。


 そう思うが、無いものねだりをしても仕方がない。今あるもので対処するしかないのだ。


 倫太郎はおもむろにパンフレットを開き、ビリっ! と勢いよくページを一枚破り取った。


「痛い目に遭いたいという君たちに教えてあげよう。俺は、実は普通の人間ではない!」


 は? という表情で、連中が顔を見合わせる。


「今からそれを証明してやろう。君たちごときでは太刀打ちできないということが嫌でも実感できるぞ」


 言って、倫太郎は靴を脱ぎ、そして靴下さえも脱ぎ捨て、裸足になった。めいちゃんですら、驚いた顔でこちらを見ている。だが、腹はもう決まっているのだ。かますぞ、大技を……!


「見ろ! これが、俺が人ならざるものである所以だ!」


 破り取ったパンフレットの一ページを大きく振りかぶり、足元へと急転直下させる。そして、地を踏みしめているはずの足のウラめがけて、その一枚をすう……っと。


 ………抜けたあっ…!


 僅かに引っかかりながらではあるが、何とか両足の下を紙一枚がすり抜ける。


 それは、倫太郎にとっても賭けであった。これ程の厚さの紙を通したことは今まで一度として無い。通そうとしてもたいていの場合が途中で止まってしまい、結局、足の下を通せるのはいつだって薄いコピー用紙一枚が限度だったのである。それを。


 倫太郎は顔を上げ、目の前の男二人組に高らかに突きつけた。


「どうだ! 今見せたものに、種も仕掛けも一切ない。普通に立っていると見せかけて、俺は僅かに地面から「浮いている」のだ!」


 最後はもう開き直りである。状況がよく分かっていなさそうな連中に、わざと強調するようにしてそう言った。地面から浮いている、つまり、常識では考えられないような超常的な存在だということを知らしめるために。


 何だそりゃあ! と最初はバカにしたように笑っていた二人組も、そんなの俺だってできるぞ、と試し始めてすぐに顔を青くし始めた。当然だ、本当に普通に立っているだけなら、どんな紙だろうと足の下を通り抜けるなんてあり得ない。


 せがまれるままに何度も披露してみせて、ようやく男たちは事態を悟ったのか、恐れ(おのの)いたような顔をして逃げていった。


 人間じゃねえ! そう口々に叫ぶ声は、映画館内にいた他の人々の中にも聞き取った者がいただろう。だが、実際に目にしたのでなければ、誰がそんな言葉を信じられよう。よって、その点を倫太郎が心配することは無かった。


 それよりも何よりも、そこから顔を背けてしまいたくなる程、倫太郎が一番打ちひしがれていたのは、めいちゃんの反応だった。


 こんな形で秘密を知ってしまっためいちゃんは、この世の終わりというような、何とも形容し難い驚愕の瞳を倫太郎に向けていた。


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