プロローグ 話を始めよう
さて、それじゃあ話を始めよう。
まずは何から始めようか。―――ああ、そうだな。
俺は周りから少し浮いている―――、そう聞いて、君は一体何を想像するだろうか。
え? 何? 君って誰のことかって?
何を言っている。君は君だよ。俺の言葉にそこで「え?」と画面に顔を寄せたアホ面の君のことに決まっているじゃないか。
何? アホ面は失礼だと?
……うむ、まあ確かに、アホ面というのは余計だったな。
とにかく、そこでこちらに顔を向けている君に対して、俺は話をしている。
で、どうだ? 周りから少し浮いている、そう聞いて何を想像する?
え? 周りに馴染んでいないとか、集団にいるとどこか違和感を感じるとか、そういう意味じゃないかって?
ふん、まあ、たいていの人間はそう答えるだろうな。
だが、もし君が俺の言葉を本気でそういう意味に受け取っているのだとしたら、君の俺に対する想像は一〇〇パーセント間違っていると言える。
俺は周りから少し浮いている、先程俺がそう言ったのは比喩的表現でも何でもない。言葉通りの意味だ。
――そう、俺は周りよりもほんの少しだけ浮いている。精神的な意味ではなく、物理的に。
おお、いい反応だな。それこそ俺が求めていたものだ。ここでこうして話している甲斐があるというものでもある。
言っておくが、俺は幽霊でも超能力者でも、ましてやファンタジーの中に生きているような人間でもない。君と同じように、現代の日本に生きる普通の高校生、人間だ。
なのに浮いてるってどういう意味かって? だから言っているだろう。言葉通りの意味だ。
俺は物理的に地面から少しだけ浮いている。周りがそうとは気付かない程、ほんの少しだけな。
おいおい、なんだその目は。胡散臭いものを見るような目はやめろ。これは俺にとって最大の秘密なのだぞ。どこかで俺の力を狙っているヤツに知られでもしたら、俺の命は危険に晒されるかもしれないんだ。
ん? ならばなぜそんな秘密をここで打ち明けるんだ、とでも言いたそうな顔をしているな。
ああ、君のその疑問はもっともだ。俺が自分の秘密をあえてこんな場所で語っているのは、そうしなければならない重大な理由があるからだ。
その理由を、今から君に話そう。
先に言っておくが、今から話すことはすべて事実だ。
今君が何の疑いも無く、息を吸って吐いて生きているそこと同じ場所で、本当にあった出来事だ。
もしかしたら、君の隣にいる誰かにも起こりうることかもしれない。そして、今こちらの話に耳を傾け……いや、目を寄せている君自身にとっても、他人事ではない話かもしれない。
何? もったいぶらずに早く始めろ? なんだ、見かけによらずせっかちだな。まあいい。
では、話を始めよう。
まず、俺の名前は、葉山倫太郎という。