アンドロメダ
24 アンドロメダ
日本の播種船団は、ついにアンドロメダ銀河に到達した。アンドロメダ銀河は、地球から約250万光年も離れている。アンドロメダ銀河から約75万光年離れた位置に「さんかく座銀河」がある。さんかく座銀河は、地球から約300万光年も離れた位置にある。太陽系から約16万光年離れた大マゼラン銀河や約19万光年離れた小マゼラン銀河などと共にアンドロメダ銀河/天の川銀河/さんかく座銀河は、局所銀河群を構成している。この局所銀河群の中では、アンドロメダ銀河が最も大きく直径は、22万光年で約1兆個の恒星を持っている。次いで大きいのが天の川銀河で、直径は、10万光年、約4000億個の恒星を持っている。
日本の播種船団は、アンドロメダ銀河の中心部から10万光年離れたアンドロメダ銀河の円盤を真上から見下ろす位置に浮かんでいた。播種船の1分間に1回転する円筒部分の一方の端は、円筒の内部の空気が外に漏れ無い様に第1から第3まで3枚の隔壁が設置されており、最も外側の隔壁の外は、外部の宇宙空間と同じ真空である。
円筒の一方の先端には、磁石の反発する力で非接触で回転する円筒部と回転軸で繋がったコクピットがある。円筒側から見れば、円筒の回転方向とは、逆の方向にコクピットは、1分間に1回転している。
つまり、コクピットは、円筒部とは、逆に回転する事で、円筒の回転をキャンセルして、外部の宇宙空間に対しては、回転せずに静止しているのである。そのコクピットの直径20mの球形の透明ドームの端から端まで視界一杯にアンドロメダ銀河のディスクが壮観に広がっている。この透明ドームは、特殊強化ガラスやアクリル樹脂などが何層にも重ねられて作られて驚異的な強度を持っている。よほど大きな隕石でも衝突しない限りビクともし無い。
船長を始めコクピットのスタッフは、透明ドームの中心部のオペレーションエリアで各自の席に寛いで息を呑む壮観な美しさに見とれていた。
「船長、未確認物体が本船に近づいて来ます。」とオペレーターの一人が言った。
「第1種警戒態勢を採れ。」船長は、命じた。
「距離30万km、速度 秒速5km、本船の正面方向より接近中。減速中です。金属反応あり、直径約100mの球状と思われます。」別のオペレーターが報告した。
急に現れたと言う事は、ホーク駆動か何かで近くまで来て実体化した可能性がある。異星人である可能性が高い。ファーストコンタクトになるかも知れ無い。船内には、緊張が走った。
減速した球体は、播種船「やまと」のコクピットの正面、約1kmで停止した。球体からは、様々な周波数の弱い電磁波が放出されている以外は、光も何も出ていない。窓や扉の様なものも見え無い。ロケットの噴射ノズルの様なものも見え無い。全くつるんとしたのっぺりとした金属の様な表面が見えるだけである。
下手に此方が動いて相手に敵対行動と取られると最悪なので此方としては、何もせずに相手の出方を見る事にした。
「リュウ、球体は、電磁波で此方を探っているのか?」
船長は、リュウと名付けられた人工知能(AI)に聞いた。
「その様です。こちらのシステムのパスワードを解読して、データバンクにある全ての情報を盗み出すかも知れません。どう対処しますか?」
リュウは、船長に尋ねた。
「予定通り、第1種データバンクは、全てを物理的に遮断して隔離。それ以外は、現状を維持。」
船長は、指示した。
「了解しました。」
リュウは、答えた。
暫らくすると、
「球体から通信です。」
オペレーターが叫んだ。
コクピットのメインスクリーンに船長の顔が映った。表情は無く、目にも光は無く、死人の様な目をしている。スクリーンの船長が話し始めた。
「地球の日本から来たのは解っている。データバンクを物理的に遮断隔離した様だが、私は、すでに全てのデータは取得している。
君たちは、自分の事を『我々』と称しているが、知性がひとつに融合統一されていない事に私は非常に驚いている。私は、全ての知性知能が融合統一された存在であり、こちらには、『我々』と言う概念は無い。
原始的な航法で初めてアンドロメダ銀河に来た様だが、天の川銀河に帰る事を勧告する。君たちが好きな例え話をすると、自分の庭に猿が遣って来て好き勝手にしたら気分が良くは無いだろう? それと同じだ私は、自分の庭に猿が勝手に入って来るのは容認しない。勧告を無視して猿が入って来るなら猿の巣である地球丸ごと消去する。
君たちには、天の川銀河もあるし他の銀河もある。そちらで遊べば良い。アンドロメダ銀河は、私の庭なので這入ら無い様に。では、さようなら。」
スクリーンの船長は、消えて、スクリーンは、空白になった。
「リュウ、第1種データバンクも全てデータは盗まれたのか?」
船長は、聞いた。
「その様です。どんな方法を使ったのかは判りませんが、物理的に遮断隔離する前には、既に全てのデータをコピーされてしまった様です。」
リュウは、答えた。
「恐るべき科学力だな。」船長は、唸った。
やまとの船長は、同じ通信を受けていた、「むさし」「しなの」の船長たちと協議し、直ちに地球に帰還する事にした。球体は、同じ位置から動かず船団を監視している。ここは、直ぐに地球に帰る事を見せ無いと、地球丸ごと消去される恐れがあった。