#1:汎用車型転生装置(物理)トラック
それを見た時、何故か分からないが運命だと思った。まるで酔っ払っているかのようにふらつく大きな車体、路面が凍っているというのになんの対策もされていない夏タイヤ。なんの根拠もないが本能的にそれらが五月雨泰斗の人生を大きく変え得るものだと。それは決してすでに決まっていた内定がコネ入社のやつの分の席を開けるために取り消された苛立ちからではなく、かといって初恋の子に似ている女子高生が目の前で凍りついているからでもない。
ただ純粋にこの行動が正しいと思った。足がすくんで動けなくなっている女子高生を突き飛ばし未だにブレーキが踏まれる気配のないトラックの前に立ちはだかる。人は死ぬ前に走馬灯を見るというが眼前に迫ったトラックを見て頭に浮かんだのは全く見たことのない草原だった。
(……なんじゃそりゃ)
どこまでも広がる草原を幻視した直後全身に経験したことのない衝撃が走り天と地が何度もめちゃくちゃになった。おおよそ2秒ほどだろうか、地面に打ち付けられた俺は全身を地面にこすりつけながら転がってようやく止まった。その頃になって悲鳴とブレーキ音を鼓膜がとらえ、同時に全身を寒さと熱さという相反する情報を脳に伝達し始めた。
「大丈夫ですか?!聞こえますか?!しっかりしてください!」
視界は既に真っ暗で何も見えないがかろうじて機能している聴覚が女子高生の泣きそうな声をキャッチした。どうやら彼女は無傷のようだ。何も遺すことが出来なかった俺の人生の最後に花を添えられただろうか?…………そんなことはいいか。
「もう少しで救急車来ますからね!あとちょっと頑張ってください!!」
必死に声をかけてくれる女子高生には悪いがそろそろ限界だ……君はこんなつまらない人間に育つんじゃないぞ…………
「…………!………………!……!!!」
こうして五月雨泰斗の人生は終了した。友達と呼べる様な人物もいないから心残りといえば童貞のままだったことと、1人で俺をここまで育ててくれた母親より先に死ぬという最大の親不孝をしてしまったことだろうか。ごめんよ……母さん……………………
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…………!…………!…………!」
「「「……!……………………!!!!…………!!」」」
……暗い。死んだからそれは当たり前か……でも遠くから音が聞こえるな?これは……声か?若い男女の声と……2.3人の女の声だ。しかしはっきりと聞こえんな……暗いし(2回目)
「生まれましたよ!女の子です!」
「「「おめでとうございます!バーガル様!!」」」
声が聞こえた……って眩しッ!瞼開いてないのに眩しっ……?瞼が開かないぞ?あと生まれたって誰が?
「ふぇ?」
「あらら……大きなおめめね……でも泣かないわね……どうしたのかしら」
デカい。ようやく瞼を開けることに成功した俺の視界の85%は見事な双丘で覆われていた。残りの15%に映っているのは不思議そうにこちらをのぞき込むトパーズのような目……まるでいうことを聞かない体、やけに赤い女の顔、「生まれた」という単語。ここまでくれば群を抜いて愚鈍な俺でもわかる。
「おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!(棒読み)」
「泣いたわ!ちょっとびっくりしちゃったのかしら?」
どうやら俺は「五月雨泰斗」としての記憶を保持したまま輪廻の流れに沿って生まれ変わったらしい。……しかも女の子に。