眠る方法〜眠れない羊飼いの見る夢は?〜
## 登場動物紹介
ウチのご主人様はぼんやりしてます。でも馬に乗るとしっかりした人に変わります。狼とか熊見つけるとご主人様強ええ!ってなります。
あ、僕は牧羊犬です。他に僕に喧嘩売ってくる茶色い猫がいます。口が立って腹立ちます。ご主人様にべったりです。いや、ご主人様が猫っ可愛いがりなんだけどさ。
さっき言った馬は牧羊やってるのが謎の脚がめちゃくちゃ速い馬です。あと当たり前だけど羊がいっぱいいます。あ、忘れてた。朝早くうるさい鶏も。たぶんこれで全部。
最近ご主人様の様子がおかしいんです。猫は放っとけって言うけどぼんやりに拍車がかかって危なっかしいよ。
見渡す限り緑の草原にぼーっとした羊飼いがいました。
賢い犬と、狩りの上手い猫と、足の速い馬と、卵をくれる二羽の鶏と、たくさんのふわふわの羊に囲まれて幸せに暮らしていましたが、眠れずに困っていました。
***
ゆらゆら揺れる椅子に座って寝てばかりいる膝の上の茶色い猫を撫でながら羊飼いは呟きました。
「眠れていいなあ」
「あら失礼ね半分起きてるのよ。いつだってあなたを悪い奴から守ってあげられるように。だから安心しておやすみなさい」
「そうなの?ありがとう」
てっきり猫が眠っていると思っていた羊飼いはびっくりしてお礼を言いました。
実際よく鼠を貰って困るけど、おかげで食糧庫を荒らされる事はありませんでした。
***
羊飼いは毎日羊たちを広い草原で食べごろの草のある場所まで案内します。
犬は羊がはぐれないように注意しながら追いかけます。
目的地に着いて馬から降りると羊飼いはヘタっと座り込みました。
「大丈夫ですか!?」
馬が驚いてききました。
「うん、眠いだけだよ」
「木陰で休むといいですよ」
「そうするよ」
***
「まだ眠そうですね」
帰り道に犬が主人の悪い顔色を心配しました。
「眠れないんだ、どうしたらいいかな?」
「好きなご飯をいっぱい食べるとよく眠れますよ」
「帰ったらやってみるよ」
羊飼いはたくさんパンケーキを作って食べてみましたが、やっぱり眠れませんでした。
「じゃあ梟にきいてみてください」
犬が留守番は任せて、と頼もしく請け負いました。
「明日の朝、森に行ってみるよ」
梟は遠くの森にいるので馬に乗って夜明けに急いで会いに行きました。
訪ねた梟はこれから眠りにつく早朝で眠そうです。
「あの、卵サンドを作って来たんですが食べませんか?」
「それはいいね、何か悩み事かな?」
梟にはよく相談に来る者がたくさんいました。
「眠れなくて困っています」
「はて、困るとは?」
「ぼーっとして転びそうになったり」
「怪我をしたかい?」
「いいえ。犬が止めてくれました」
「なら困らないね、次は?」
「羊のご飯の場所を忘れたり」
「その時どうしたのかな?」
「羊たちに方向が違うよと教えて貰いました」
「なら問題ないね、あとは?」
「猫と犬と馬と鶏のご飯を忘れたり」
「ご飯を忘れ過ぎだねえ、それで?」
「猫が狩りをして僕に鼠をくれたので気付きました」
「まあ気付いたらいいけど、君のご飯の時間の前に猫と犬と馬と鶏にご飯をあげたらどうかな」
「そうですね」
そんな簡単な事に気付かず羊飼いは恥ずかしくなりました。
「他には?」
「羊たちを見張ってる間に居眠りをしたり」
「眠れてるね、羊は犬も見張ってるよね?馬も一緒かな?」
あれ、そうか。放牧中は少し寝てるな。
「はい、帰る時間に馬が起こしてくれました」
「まだ何かあるかい?」
「ええと、服を裏返しに着てたり」
もうこういう小さな失敗しかありません。梟は首を傾げて尋ねました。
「それって死ぬほど困る事かな?」
「いいえ、これどうぞ食べてください」
羊飼いは大した悩み事がなかった事に気が付きました。梟は笑って頂くよ、と言って玉子サンドを食べました。
「眠くても何とかなってるみたいだね。でもよく眠りたいなら羊を数えるといい。ただし君の全部の羊たちの頭を撫でて名前を呼んで返事を貰って必ず放牧中に数え終えること。急がないと日が落ちるよ。もう行きなさい。ごちそうさま。猫にもよろしく」
「えっ、はい!ありがとうございます。お粗末様です。また来ます!」
「いや、もう来ないでいいよ…あ、速っや!」
羊は百匹もいます。羊飼いは慌てて馬に乗って険しい森の中を風のように駆けて行きました。
(まあここまで来ただけでも大丈夫だと思うがね。)
梟はため息をついてデザートに貰った鼠も食べてもう見えなくなった羊飼いに声に出さずに言いました。
***
帰って来た羊飼いは馬にお水とご飯をあげて、猫と犬と鶏にもご飯をあげると急いで羊たちを食べごろの草がある場所に連れて行き、羊のふわふわの頭を触って名前を呼んで返事を貰って数えて走り回りました。
半分あたりでふらふらになりましたが、日暮れ前に何とか間に合いました。ヘトヘトになって羊たちを連れて家に帰るとすごくお腹が空いていたので、みんなにご飯をあげたあと、羊飼いは今までで一番多くサンドイッチを作って食べました。
(具が多くてもうそれサンドイッチじゃない…。)と犬は思いました。
猫は羊飼いを横目で見て何があったか察しました。
「相変わらず梟は意地悪なんだから。鼠なんか持たせるんじゃなかったわ」
寝落ち寸前の羊飼いを見て猫が犬に当て擦りました。
「解決したんだからいいじゃないか」
「毎日こんなじゃ困るわ」
「そのうち慣れるよ」
犬がいつもやっている事だから羊飼いに出来ない訳ないし。実際出来たじゃないかと猫と喧嘩になりました。
「ああ、こらおいで」
いつもの喧嘩している猫と犬を引き離し羊飼いは猫を抱いて布団に仰向けに倒れ込みました。
「ごめんもうダメ眠い。梟が君によろしくって…」
羊飼いは猫と遊んでくれずに眠ってしまいました。あなたのせいよ、と猫は光る金の目で犬を睨みました。
お腹の上に乗っても爪を出さずに顔をぽてぽてと叩いても起きないので猫は諦めて周囲を警戒しながら羊飼いのそばで浅い眠りにつきました。
(梟のやり方は気に食わないけど、まあネズミの一匹なら安いものかしら。)
翌朝、羊飼いは鶏が大声で鳴いても起きません。猫が勢いよく飛び乗ってやっと起きました。
(私にこんなことをさせるなんて、やっぱり梟は意地悪だわ!)
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## 名前と夢
それからは犬が言った通りに羊飼いは慣れて猫とも以前のように寝る前に遊んでくれるようになりましたが、猫は犬に喧嘩を売ります。
「何が不満なのさ」
「彼が呼ぶ名前が105のうちの一つになったわ!」羊100匹と犬猫馬ニワトリ2匹で。
「そんなことで怒る猫ってよくわからないよ」
「いいわ。かくれんぼをして一番多く呼ばせるから」
「猫って性格悪いね」
「あら、ついでに鼠も狩るんだからいいでしょ」
「う、うーん」
いいのか。まあ鼠を獲るのはいい事だ。犬はいつも猫に言い負けてしまいます。
「また喧嘩して。ほらもう寝るよおいで」
猫をリボンで誘き寄せて寝室に連れて行きます。犬も呼ばれてついて行って猫が狂った様に紐に戯れるのを見ながら足元の箱の上の自分の寝床に伏せました。
羊飼いがいい夢を見れますように。犬はお祈りして目を閉じます。翌朝、夢を見たかきいてもまた顔を赤くして覚えてないって答えが返って来るんだろうなあと思いながら。
## 解説
タイトルの答え合わせです。
夢は不眠解決前後で悪夢といい夢とで2つあります。戦場と郷里というところで詳細はご想像にお任せで。
ちなみに鼠は苺大福味がします。
眠る方法は梟が羊飼いにさせた物理です。
眠れない人は、105匹と1人に名前を付けてみてください。途中で飽きて疲れて眠れるかも知れません。
それでもダメなら走ってみてはいかがでしょう?くれぐれも険しい人混みでは走らないようご注意ください。
あなたが見た今までで一番いい夢ってなんですか?
自分は空を飛ぶ夢です。飛ぶというより空気を蹴って漂う水の中の様な、無重力空間の感じでした。
不眠が辛くて、ただひたすら幸せで、楽しい可愛い平和な小説を読みたくて書きました。同じく悪夢に苦しむひとが少しでも楽になれば幸いです。