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66話 新人魔法使いの投影術

「告げる! 精霊よ! 我が願い、聞き入れたまえ!!」


 高らかな声が「玉座の間」に木霊する。

 誰もが声の主に視線を向けた。


「僕以外、何人たりとも魔法を使わせるな!」


 瞬間、玉座の間の空気が震えた。

 肌がひりつくような痺れが走り、誰もがその場で崩れ落ちた。シャーロットも身体がふらつき、杖にしがみつくことでようやく立ってられる状態だったが、両足はかすかに震えていた。


「……まったく、酷い人だこと」


 シャーロットは呟いた。平静を保とうとしたが、ご褒美がとりあげられた子どものような苦々しい声色になってしまう。憧れの魔法を目の前で取り上げられたのだから、当然の反応といえば当然であろう。シャーロットはちょっぴり不貞腐れた顔で魔法を使った人物を見上げた。


「サリオス兄様」

「……」


 サリオスは右手を前に突き出し、肩で息をしていた。

 はぁ、はぁと荒い呼吸を繰り返しながらも、目には戸惑いの色が強く浮かんでいる。自分がやってしまったことを受け入れ切っていないような顔だった。彼は自分の手をまじまじと見つめ、ゆっくりと玉座の間に目を向けた。


「陛下……これは、本当に……魔法を使えた、ということになるのでしょうか?」

「ば、ばかな……」


 国王は口をわなわなさせていた。依然として玉座に腰を下ろしていたが、顔には恐怖が焼き付いていた。だが、すぐに我を取り戻したように叫んでいた。


「せ、精霊よ! そこの男に死の制裁を!」


 しかし、今度は何も起こらない。

 サリオスは平然とした様子でたたずんでいる。

 魔法が効いていないのは、一目瞭然だった。国王はわなわなと震えた。あまりに震えるものだから、王冠が頭からずれ落ちる。王冠は床に転がり、からんと乾いた音を立てた。


「……どうやら、本当みたいだな」


 サリオスは自分の手のひらを見下ろしながら、独り言のように呟いた。ぎゅっと何かをつかむように拳を握り、長く息を吐きながらゆっくりと開く。五本の指がぴんっと伸びたとき、彼は覚悟が決まったように目線を挙げた。


「精霊よ。僕が『良い』と言うまでの間、陛下を立ち上がらせるな」


 サリオスの周りに一陣の風が走った。

 シャーロットが目を凝らすと、風は透明な縄となり、国王を椅子に縛り付た。国王は慌てて立ち上がろうとするが、もぞもぞするだけで席を立つことはできなかった。


「精霊、あの者たちも同じように座らせてくれ。俺が『良い』というまで、な」


 彼の指はアルバートたちの上をすうっとなぞった。

 すると、彼らもひとくくりになったように縛り上げられる。

 アルバートは特に怒り狂い、両手両足を子どものようにばたつかせた。


「さ、サリオス! 貴様っ!」

「……王子、僕は反逆行為を行いたいわけではありません」


 サリオスは淡々と言い切った。


「本当に魔法を使うことができるのか、まずは確かめたかっただけなのです」

「あら、初耳ですわ」


 兄の発言に、シャーロットはわずかに目を見開く。


「兄様は魔法に興味がないように見えましたわ。まさか、この状況で使うとは思いませんでした」


 シャーロットが使えるのであれば、いままさに捕らえられている大臣たちだって使える。彼らにとって、魔法なんて特大級の切り札が目の前にあるのであれば、脱出のために喜んで使ったことだろう。しかし、彼らが魔法に飛びつくよりも先に、サリオスが使ってしまった。


(私より先に魔法を使う者がいるとすれば、陛下かアルバート様だと思っていましたが……まさか、兄様が先手を打つとは)


 これは珍しく計算外だ。

 シャーロットは頭のなかで再計算しながら、また扇子で口元を隠した。


「ですが、もし仮に魔法が使えなかったら、恥ずかしい状況になっていましたよ?」

「お前が『使える』と断言したんだ。それなら、僕も使えるに決まっているだろ」


 サリオスは平然と言い切った。


「他の誰に使われてもまずいからな。それに、お前に魔法なんて最高の玩具を与えてみろ。それこそ、この国は終わりだ」

「まぁっ! 私、そんな酷いことには使いませんわ」

「……どうだかな」


 サリオスは難しい顔で言った。


「余所様の秘密という秘密を全部暴くんじゃないか?」

「人聞きの悪いこと。私は誰かの秘密を知りたいわけではありませんわ。自分の興味のあることや火の粉がかかったときに、仕方なく知ろうとしているだけですもの」

「それが駄目だって……いや、もういい」


 サリオスは呆れたように首を横に振ると、再び手を挙げる。


「精霊よ、酷使して悪いな。もう少し付き合ってくれ――ここにマリリン夫人が来訪したことがあるなら、その痕跡を示してくれ」


 すると、不可思議なことが起きた。

 広間の中心に風が巻き起こったかと思えば、青白い人影が浮かび上がったのだ。マリリン夫人の姿を取った影は常に薄らいでおり、向こう側が透けて見えた。


『なんですって!?』


 青い夫人が口を開くと同時に、焦るような声が響き渡った。


『ええ、確かにアルバート様とオリビア様に進めた絵画の鑑定に間違いはありましたわ。それに関しては、申し訳なく思っておりますとも。ですが、銀山で得る収益の三分の二を寄こせというのは理不尽極まります!』


 夫人は誰かと話しているように思えた。

 その相手が誰なのかは、口にしなくとも誰だって分かったことだろう。


『えっ、なに……きゃっ! ――っ、これって……――ッ、ギャァアー!!?』


 しばらく間があったあと、夫人はおもむろに倒れた。なにかぶつかった痕跡もなかったのに、突然と糸の切れた人形のように崩れ落ちたのだ。その後、胸元をしきりにさすりながら立ち上がる。謁見用と思われる高級なドレスの胸元をわずかにめくり、世界がひっくり返るのではないかと思うような悲鳴を轟かせた。


『な、な、なんなのよ、この刺青は!? ――え、支払いをしないと、私の心臓が握りつぶされる? そんな、ことが……?』


 夫人は酷く狼狽していた。

 このあとは、夫人の取り乱した姿が映るばかりだった。アルバートに懇願し、オリビアに怒りを鎮めるように平謝りをしていたが、結局のところ泣き寝入りするしかなかった。夫人は支払うことに了承し、その場を後にするまで投影された。


「……夫人の胸の刺青。これは証拠になりそうですわね」


 シャーロットは夫人の消えた場所を見つめた。


「刺青の種類が私と同じく人為的なものではないと証明できれば、アルバート様が関与していたことの証拠になりますわ」

「ふんっ、そんなもので証明できるかな」



 アルバートは青ざめた顔のまま吠えていたが、虚しく響くばかりだった。






次回は4月の土曜日に更新します。

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