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ルディアス



「よっ! ヒース元気かー?」


 昼を回った頃、突然勢い良く玄関の扉が開かれた。

 びくりと肩を震わせて玄関に目を向けると緑色の髪をした、体格のいい男性がズカズカとこちらへ足を進めてくる。


「はい。元気ですよ。いらっしゃい、ルディさん。お変わりないようで何よりです」


「相変わらず肩っ苦しいなぁー」


「はは、すみません。これでもルディさんには気を許してるんですよ?」


「知ってるよ。じゃなきゃ家に呼ばないだろ。で、この子が?」


「はい、アリシアさんです」


「ふーん……」


 ヒースも長身だが、それよりも遥かに背が高く筋肉質な男に見下ろされて萎縮する。


 上から下までジロジロと金色の目を何往復もさせると、満足したのかよく分からないがうんうんと納得するように頷かれた。


「あ、アリシアです……どうぞよろしくお願いします……」


「ん、いーよいーよ。将来に期待してよろしくしてあげよう」


 私の顔ではなくやや下あたりを見ながら言われた言葉に眉根が寄った。


 …………今どこ見て判断した?


「俺はルディアス。ヒースの元同僚で友人だ。城で魔法使いをやってる。気軽にルディと呼んでくれ」


 差し出されたゴツゴツした大きな手を握り返す。


「あ、あの?」


 離そうとしても握られたまま離れない。

 焦って剥がそうともがくのをルディアスがニヤニヤと意地の悪い顔で見下ろしている。


「ヒースっ……」


「ルディさん。それくらいで。早速なんですけど、ちょっと村に行ってほしいんです」


 助けを求めると、ヒースが苦笑しながらルディアスの手を引き離す。


「はいはい、例の子だろ。見て来るよ」


「一応手紙には書きましたけど場所わかります?」


「わからなかったらその辺の女の子に聞くから気にすんな」


「あはは、そうですね。では、お願いします」


「終わったらまた顔出すわ」


 そう言うとルディアスは光に包まれて一瞬で姿を消した


「ひ、ヒース! もしかして今の人がお姉ちゃんを……!?」


「はい。リズリーさんを見てくれる僕の友人です。彼に任せておけばこの1ヶ月は問題ないですよ」


「そ、そう、なのね。うん、ヒースがそう言うなら安心ね」


 如何に噂では堕落した生活をしていると言われても、王城に勤める魔法使いは有能だ。

 ヒースがここまで信頼するのなら心配はいらないのだろう。


 ならば、私がすべきことは家族としてヒースと思い出を作ることだけ。


 村から戻って数日、思い出らしい思い出などまだ何も作れていない。


 でも思い出って、特別なことだけじゃないわよね。

 日々の積み重ねだもの。

 こうしてまったりと2人でコーヒーを飲んで過ごすのも私は好きなんだけど、ヒースはどう思ってるのかしら。


 開け放した窓から柔らかな風が入り、カーテンを揺らしている。

 ヒースが本を捲る音が心地よくて、自然と目を閉じる。


「ふふ、アリシアさん。こんなところでうたた寝ですか?」


 その優しい声すらも心地よくて聞き入ってしまう。


「アリシアさん?」


 ゆっくりと目を開けると、向かいに座る紫の瞳とぶつかった。


「どうしました?」


「あ、ううん。何でもないの。なんだかぼんやりしてただけ」


「眠気覚ましにコーヒーでも淹れましょうか?」


「うん、お願いしていい?」


 細くて長い指が机の上のカップを2回叩く。

 初日に見たのと同じ淡い光が包み込んで、コーヒーの香りがふわりと漂う。


「ヒースの魔法は綺麗ね」


「魔法使いなら誰でもできますよ」


「そうじゃないの。誰でもできるからとか関係ないわ。今、私がそう思ったの。他の人なんて知らないわ」


「ルディさんの転移の魔法の方がキラキラしてますよ?」


「ふふ、ルディアスさんは派手で綺麗よね。でもヒースの魔法の方が好きよ」


「……そう言ってくれるのはアリシアさんだけでしょうね」


「だって家族だもの。贔屓してしまうのかもしれないわね」


 おどけて言うと、ヒースが照れたような困ったような笑みを浮かべて視線を落とした。


「……ありがとうございます。アリシアさん」


 それは囁くような小さな声だった。

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