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小さな約束


 ヒースと一緒に洗濯を干して、家の掃除をしながらどこに何が置いてあるのか教わっていく。


 夕方になると少し仕事をすると言って、ヒースは仕事部屋に篭った。

 王城の魔法使いからの依頼で魔法薬を作っているそうだ。

 なんでも「そんなちまちました作業が出来るか!」と言ってヒースに仕事を投げてくるらしい。

 もちろん報酬は上乗せして請求していると言っていた。

 おっとりした見た目の割に意外とヒースは抜け目がないみたいだ。



 ヒースが仕事をしている間に私は夜ご飯を作り、もうすぐ完成するかというところで扉が開く音が聞こえた。

 そちらに目を遣るとヒースが出て来たところだった。


「もうすぐできるから座って待っててね」


「アリシアさんってば僕を子供扱いしてませんか?」


 不満げな言葉とは裏腹に楽しそうに笑いながらキッチンに入ってくる。


「どうしたの?」


「手伝いますよ」


「ありがとう。テーブルまで運ぶの手伝ってくれる?」


「もちろんです」


 食卓にお皿を並べながら「そういえば」と口を開く。


「昨日の夜ご飯作ってくれたけど、ご飯は魔法では出せないのね。コーヒーを出していたからできるのかと思ったわ」


「言ったでしょう? 僕は中途半端だって。出せるものも限られてるんです。王城の魔法使いなら食器から何から何まで指先ひとつで出せますよ」


「すごいわね! でもそこまでいくと自分で何もできなくなりそうで怖い気もするけど」


「まあ、大半の魔法使いは堕落した生活してますね〜」


「ふふ、やっぱり」



 他愛もない話をしながら食事を終えて、2人で後片付けをしているとヒースが「明日なんですけど」と切り出してきた。


「一緒に村に戻りましょうか。お姉さんの様子を見たいでしょうし。ご家族にも1週間留守にすることを説明しないといけないでしょう?」


「そうね。お父さんも心配するもの。でもまた何時間も歩くと思うと憂鬱だわ……」


 昨日あの薄暗い森を彷徨ったばかりだ。

 正直もうしばらくは遠慮したかったが姉に会うためならば仕方ない。

 拳を握って気合を入れていると、ヒースはクスクスと笑う。


「大丈夫ですよ。ここから村までは30分で着きます。ここには僕の許可がないと辿り着けないだけです」


 なるほど。魔法使いの家を探しても辿り着けないようになっていたのか。

 昨日の苦労を思うと涙が出そうになった。


 記憶を辿る中でヒースのフード姿を思い出し、ふと気づいた。


「あ、ねえ」


「どうしました?」

 

「ヒースは村では顔を隠すの?」


 あの小さな村にこんな美形が現れたら大事件になるわ。


「そうですね、その……顔を出すと少し面倒なことになりますので怪しいかもしれませんが外ではフードをするようにしてます」


 その苦笑いすらもあまりに美しいものだから今までの苦労が偲ばれる。


「何かあっても私が守ってあげるわ! 村ではそれなりに強いのよ!」


 大した筋肉はないけれど力こぶを作って安心させるように大きく胸を張る。

 ヒースはそれを見てポカンと口を開けた後、小刻みに震え出した。


「ふ、ふふ、あははっ、ははは! はいっ、アリシアさん、頼りにしてますね! 約束ですからね?」


 無邪気な笑い声に恥ずかしくなり、そっと身を縮こまらせた。


「もう、ヒース! あ、あまり笑わないでちょうだい……! 私は真剣だったのに!」


「ふふ、すみません。守るなんて言われたの初めてで……嬉しくてつい。アリシアさんは僕を喜ばせる天才ですね」


 へにゃっと相好を崩したヒースの優しい眼差しを受けて、顔に熱が集まり何も口にできずにそっぽ向いた。

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