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家族(仮)になりました

 ヒースの部屋を出て、角を曲がった隣の部屋を開けてみるとそこは仕事部屋のようでいろんな薬草や素材が並べられていた。


「ここは違うわね。じゃああっちね」


 すぐ隣の玄関に一番近い扉を開けると、ひんやりとした空気と食材の匂いが溢れた。


「食べ物ーーー!!!」


 パンにベーコンにチーズ。卵とレタスとトマトに玉ねぎ……ああ、ミンチも欲しいわ。


 あれもこれもと手に取りキッチンに戻る。


 家事は姉に仕込まれているので料理なんて朝飯前よ。

 と、言いつつも空腹には抗えない。

 

 手早く作り終えると、まだ起きてこないヒースに小声で「先に食べるからね」と声をかけてから朝食にありつく。


「はぅあー……満たされる……」


 簡単なサンドイッチとミンチを使ったオムレツ。そしてトマトスープを掻き込むようにお腹に収めて、ようやく一息ついた。


 窓から見える太陽の位置からしてもうお昼近いだろう。


 ヒースの分は一応作っておいたが、この感じだと彼の昼食になりそうだ。



 紅茶を淹れてまったりと過ごしているとヒースがようやく起きてきた。


「おはようございます、アリシアさん……」


「おはよう。もうお昼だけどね」


 ヒースがどことなく気まずそうに笑って椅子に腰掛ける。


「さっきはごめんなさい。勝手に部屋に入っちゃって」


「いえいえ、僕が悪いので! こちらこそすみません……」


 「でも」と言葉が続く。


「なんだか家族みたいで嬉しかったです」


「……魔法使いってあんまり家族と過ごさないの?」


「んー、その人によりますね。僕は幼少期から王城にいたので家族の顔も覚えてないです」


「そんな……」


 思わず言葉に詰まって口元を手で押さえた。


「覚えていなくても何も問題はないんですけど、でもなんだかさっきのアリシアさんを思い出すと可笑しくて。ーーそれで思い付いたんです」


 クスクスと楽しげに笑うヒースが、ひたりと私を見据える。


「ねえ、アリシアさん。僕と家族として過ごしてみませんか?」


「か、家族として過ごす?」


 どう理解すればいいのか分からずそのまま聞き返す。


「兄としてでも父としてでも。形は何でもいいんです。この1ヶ月だけ。僕に『家族』を教えてください。それが思い出作りにも繋がると思うんですけど……ダメ、でしょうか……?」


 無理して浮かべた笑顔を隠すように悲しげに俯く彼を見ていられず、テーブルの上に置かれているヒースの手を取り、ぎゅっと握りしめた。


「全然っ、全然ダメじゃないわ! ヒースの家族になるわ!」


 その瞬間、ぱあっと花開くような眩しい笑みを向けられた。

 待ってましたと言わんばかりの表情の変化だ。


「アリシアさんならそう言ってくれると思ってました!」


「え、ええ。任せてちょうだい!」


 なんだろう。この笑顔を見ていたら、なぜか少し騙された気持ちになった。

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