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共同生活のはじまり


 カーテンを透けて陽の光が届く。


 その眩しさに顔を顰めた。


 のそのそとベッドから起き上がり支度を整える。

 鏡台を前に簡単に化粧をして、胸元まで伸びた髪をハーフアップにする。


 私に割り当てられた部屋は浴室もトイレも室内にあり、ベッドに鏡台、クローゼットと一通り揃えられていた。

 ランプは花の形をしていて、ベッドフレームには花や蝶々が彫られている。

 細部を見る限り女性の部屋という感じがした。


 誰かの部屋だったのかも。

 ふ、とそんなことを思った。


「まあ私には関係ないけどね」


 彼にはどこかのお姫様とかじゃないと釣り合わない。

 それに、あそこまで規格外の美形は見るだけでも疲れてしまうものだ。

 ひとり納得するように、うんうんと頷きながら扉を開けてダイニングへ向かう。


 朝ごはんはヒースが用意してくれると言っていたがもう起きているだろうか。


 ダイニングを覗くも誰もいない。


 まだ起きていないのだろうか。


 とりあえずキッチンで水を飲んで、しばらくダイニングの椅子に座って待ってみる。


 しん、と静けさが耳に痛い。


 他人の家でできることが何もなく手持ち無沙汰のまま、ヒースが起きてくるのをひたすら待つ。



 どのくらい待っただろう。


 私のお腹も空腹を訴えていた。


 少し気が引けたがキッチンに食べ物がないか棚を開けたりいろいろと見てみたけど何も置いていなかった。

 

「ヒースの部屋の場所は聞いたけど、さすがに起こすのはなぁ……」


 空腹を紛らわすために水を口に含む。


「いや、でも魔法使いって堕落した生活を好むって新聞に書いてたし……昼過ぎまで起きてこないかも……」


 え。無理だ。起こそう。

 お姉ちゃんも朝はしっかり食べなさいって言ってたし。


 頭に栄養が足りず短絡的な思考に陥っていた。


 彼の部屋の前に立ち、軽くノックする。


「ヒース、起きてっ」


 反応はない。


 少し強めに叩いてみると、何かもぞもぞ動く音はするけれど返事らしい返事もない。


 徐々に苛立ちが募る。


「ヒース! 起きてってば!!」


 くぐもった声は聞こえるが起きた様子はない。


 次第に握りしめた手が震えだす。


「そう。そうなのね。起きるつもりないのね。……もういいわ」


 ドアノブに手をかけて部屋に入る。

 ベッドの上の丸い塊に大股で近づき、布団を引っぺがす。


「ヒース! もう朝よ! 起きてちょうだい!」


「んぅう……」


「くっ、顔がいい……!」


 目を瞑ったまま顔を顰めて布団を取り返そうと手を伸ばしてくる姿さえも絵になる。


「ねえ、ヒース。寝ててもいいからご飯食べたいの。どこに食料があるの? キッチンに何もなかったわ」


「うー……」


「うー、じゃなくて! ご・は・ん!!」


 煩わしそうにしながらもようやく薄っすらと目を開ける。

 紫の瞳が私をぼんやりと捉えた。


「あり、しあ……さん……?」


「そう、アリシアよ! ねえ、寝ないで! 起きて!」


「なんで……ぼくのへやに……」


「あなたが起きないからお腹が空いて起こしに来たのよ!」


 あれ? 私なんだか随分子供みたいなこと言ってるわ。


「しょくりょうこに……あります……」


「しょくりょうこ? 食料庫ね! ああ、もう昨日場所を聞けばよかったわ! 適当に部屋を開けて回るけどいいの?」


「んん〜……どうぞおすきに……」


 そう言ってまた眠りにつく。


 ここまで寝汚いとは。

 人は見かけによらないものね。

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