最終話
◇
目を開くと、ヒースの家のダイニングに立っていた。
そばに立つ彼を腰に手を当ててキッと睨み上げる。
「もうっ、話の途中だったのになんで帰っちゃうの?」
「えー? だってリズリーさんが許すわけないじゃないですか」
「そんなことないわ。ちゃんと話せばわかってくれるもの」
「だってあれだけアリシアさんを大切にしてるんですから誰が来ても断りますよ」
「え、そ、そう? そう見える?」
「なんでそこで喜ぶんですか……全く」
姉に大切されてると言われてにやけていると不機嫌そうに溜息を吐かれた。
「ねえ、拗ねないで」
「拗ねてません」
明らかに拗ねた声でそう言うと、腕を組んでそっぽ向かれる。
「大好きよ、ヒース」
「そう言っておけば機嫌が治ると思ってるんでしょう?」
「機嫌治してくれないの?」
正面から抱きつき、頬にキスをすると眉間の皺が少し減る。
もっと、と身を屈めたヒースの額に、鼻に、瞼にとキスをすると徐々に眉間の皺が濃くなり不満そうに唇を尖らせていく。
それを見てクスクス笑う。
「…………アリシアさん、わざとですか?」
「どうかしら?」
頬を両手で包んで、彼が望んでいるだろう唇へと口付ける。
唇を離そうとしたら後頭部に手を回されてより深く深く口付けられた。
腰に回された腕が強く私を抱き寄せる。
「んっ……」
酸素を求めて浅く呼吸をしている私を紫の瞳が捉える。
「もっと、欲しいです……」
「っ……」
その切実な響きを宿した少し掠れた声に心臓が跳ねた。
「ひ、ヒースっ……あの、そういうのはちょっと早いと思うのっ!」
「どういうのですか?」
「えっ、そのっ、ヒースがしたい、こと……?」
顔を赤くしてしどろもどろになっていると、おねだりするような目でじっと見てくる。
「だ、だめよ? そんな目で見てもだめなんだから……だめったらだめよ……っ」
今にも押し負けそうだと自分でも理解しながら必死に首を振っていると、ヒースが体を震わせた。
「くっ、ふはっ、あはははっ、大丈夫です、ふふ、ちょっと揶揄っただけです。まあ、半分以上本気でしたけど」
「もうっ、もうっ! そういうところ! ほんとやだ!!」
ヒースの胸をバシバシと叩くとその手首を掴まれてそのまま指先にキスされた。
「すみません。誰かを好きになったのが初めてなので感情をうまくコントロールできなくて」
困ったようなその笑顔に胸がきゅうっと締め付けられる。
「うぅっ、そんなこと言われたら全部許してしまいたくなるわ……」
「ふふっ、知ってます」
手に取ったままの私の指に頬を擦り付け、優しい眼差しを向けられる。
その表情だけで好きだと言われているようで顔が熱を持つ。
「アリシアさんのせいで段々と欲深くなってしまったようです」
「もっとなんでも口にしてほしいわ。ヒースのわがままなら全部聞きたいもの」
「"なんでも"ですか?」
「ええ、なんでも!」
お互いの額をくっつけて笑い合う。
絡めた指の温度も。息が混ざり合うような距離も。ヒースがそばにいるというだけで気持ちが満たされる。
「ヒースが欲しかったもの。諦めてしまったもの。これから一緒に取り戻したいの。だから、願い事を口にするのを躊躇わないで」
「全部アリシアさんに貰いました。あなたがいればそれでいいです」
「私だけじゃなくて、これからもっとたくさんの人とも関わっていくの。そうやっていろんな感情を覚えていきましょう?」
そう言うと、ヒースは心底嫌そうに顔を歪めて私を引き寄せる。
「アリシアさんだけでいいんですけど」
「嬉しいけどだめよ」
音を立てて頬に軽くキスすると、眉尻を下げたヒースが私の肩口に縋り付くようにして抱き付いてきた。
「わがまま聞いてくれるって言ったのに」
その声があまりに幼くて小さく吹き出す。
「聞くけど叶えるとは言ってないわ」
「騙すなんて酷いです……」
「どの口が言ってるのかしら」
「この口です」
唐突にまた唇を塞がれる。
それに懸命に応えながら、ぼんやりする頭できっとこれからもヒースに振り回されるのだろうと思った。
それも全てこの嘘つきな魔法使いに心を奪われてしまったのだからしょうがない。
早々に諦めて少しの隙間も無くなるほどヒースを強く抱きしめ返した。
もう二度と離れないように。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!
どうにか完結しました。
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