家族への報告
「許しません」
『………………』
取り付く島のないリズリーの一言にヒースと顔を見合わせる。
戸惑う私とは違い、ヒースは「だから言ったじゃないですか」と小声で囁いてくる。
「り、リズリー……少しくらい話を聞いてやっても……」
宥めようとする父に、リズリーは冷たい視線を向けて黙らせた。
「まあまあ、アリシアももう子供じゃないんだし好きにさせてやるのが一番だと思うぞ」
さも家族の一員のように姉の椅子の背に手を置いたルディアスが口を挟むと、くわっと目を見開き反論する。
「アリシアはまだ子供よっ! そりゃあアリシアは可愛い子よ。ええ、そばにいたら好きになって当然でしょう。私が手塩にかけて育てた自慢の妹ですもの! だからこそ、そう簡単に渡せないわ! それにヒースさんはその……」
チラリとヒースを見て言い淀む。
「あ、お気遣いなく。はっきりどうぞ?」
「では、お言葉に甘えて……ヒースさんは性根が歪んでいらっしゃるようにお見受けいたします。アリシアに対する執着も相当なものだと感じるのですがそんな方に大事な妹は渡せません!」
「あはは、そうでしょうね」
「おーい、そこ認めるのか」
随分な言い草だがあっさり肯定するヒースにルディアスが半笑いを向ける。
「だって本当のことですし。まあ、正直ここには宣言しに来ただけなので反対されたところでどうというわけではないのですが」
「ヒース君、それは思ってても言ったら駄目だろう……」
わなわなと震える姉の背を摩り、への字に眉を下げて父が窘める。
私は姉の怒った姿を見るだけで萎縮してしまうのだが、ヒースは何も気にしていないようでにこにこ笑いながら姉の様子を眺めている。
「もうヒースったらそんな言い方ばっかりして! わざとお姉ちゃんを怒らせてるんじゃないの?」
「ふふ、そう見えますか?」
「なんだか意地悪だもの」
「あはは、バレてしまいましたか。だって、アリシアさんの一番大切な人ってリズリーさんでしょう? なんだか羨ましくなっちゃいまして、つい」
つまりヤキモチからの八つ当たりか。
困った人だと思いつつヒースの手を握る。
「比べるものではないでしょう? 一番も二番もないわ。ヒースが大切で大好きなことに変わりないもの」
「じゃあ、もっと言ってください」
甘えた声に、その視線に心臓がどくんと鳴る。
「え、も、もっと? こ、ここで言うのは恥ずかしいわ……」
「じゃあ、家に帰ったらたくさん言ってください。不安になる暇もないくらい、たくさん」
さりげなく私の肩を抱き寄せて、頭のてっぺんに、額に、頬にとキスを落としていく。
「ひ、ヒース! あ、あのっ、ちょっと待っ……」
制止する私の言葉ごと、そのまま唇を塞がれた。
視線を感じる。
それはもう突き刺さるように感じる。
もう何も考えたくない。目を開けたくない。このままヒースの家に逃げ込みたい。
唇が離れた後、そのままヒースの胸に顔を押し付けた。
羞恥でとてもじゃないが顔を上げることが出来なかった。
「さて、と。早く続きをしたいので僕たちはもう帰りますね。ちゃんと報告しましたし、義理は果たしたということで。それでは」
「は、話の途中です! 帰るというならアリシアは置いて行ってください!」
「あはは、お断りします。あ、ルディさん。これお返ししますね」
ヒースがルディアスにお守りを投げ渡す。
「おー、礼はまた今度でいいぞー。ほら、さっさと帰れ」
にやにや笑いながら軽く手を振って帰るように促される。
テーブル越しにリズリーが腕を伸ばして引き止めようとしたが一歩遅く、私とヒースはそのまま転移の光に包まれて姿を消した。
「…………お父さん、私絶対にアリシアを渡さないわ」
「同意見だ」
大事な娘と妹を奪う敵だと認識されてヒースの前途は早くも多難だが、これはこれでいいんだろうなぁとルディアスは友人の幸せを願って笑みを浮かべた。




