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指輪

 少し落ち着いた後、気恥ずかしさもありベッドの上でこのまま話すのはどうかとなってダイニングへ移動した。

 お互い朝食も食べていなかったため、昼食も兼ねて済ませる。


 その時にヒースの魔力の話を聞いて納得した。

 まともな魔法が使えないという話だったのに優秀な魔法使いであるルディアスたちがなぜそこまで警戒しているのかと違和感を感じていたのだ。



「ところでどうして記憶が消えなかったんですか?」


「これのお陰よ」


 ネックレスを外して手に乗せて見せる。

 ひび割れた緑の石は辛うじて形を保っていて、少し何かにぶつければすぐに砕け散りそうだった。

 ヒースは訝しむように眉根を寄せて私からそれを預かると、少ししてから苦笑した。


「ああ、なるほど。ルディさんの仕業でしたか」


「お守りにってくれたの」


「いつのことですか?」


「2回目の村に帰った日ね」


「…………それからずっとそれを?」


 急にヒースが纏う空気が変わった気がした。


「うん、ルディアスさんが肌身離さず持ってろって言ってたから」


「へえ? ルディさんから貰ったネックレス肌身離さずつけてたんですか……」


「えっ? いや、つけてたことも忘れてたって言うか」


「そんなに馴染むほど身につけてたんですねえ?」


 うわ、めちゃくちゃ怒ってる。


 片眉を吊り上げて、嫉妬を隠すことなく手にある緑の石を見下ろしている。


「あ、あの……ヒース?」


 恐る恐る声をかけるとこちらに視線を向けた。

 全然目が笑っていないその笑みに背筋が凍りつく。


「僕が新しいのを作ってあげるので、これはルディさんに返しましょうね?」


「あ、はい……」


 逆らえるはずもなく一も二もなく頷いた。

 その返答でヒースは溜飲を下げたようで、ふっと息を吐くといつもの柔らかい空気に戻った。


「アリシアさん。左手を出してください」


 言われるままに差し出すと、恭しく手を取って右手を翳された。

 淡い光に包まれてほんのりとした温かさを感じる。


 これはもしや、と期待しながら光が収まるのを待つと、予想通りシルバーのリングが左手の薬指にはまっていた。

 紫の石が付いた指輪に頬が緩んで仕方ない。


「これ、ヒースの瞳の色ね。綺麗……」


 嬉しさを滲ませてお礼を言うと、ヒースが指輪に口付けて満足げに頷く。


「喜んでもらえてよかったです。ルディさんの付けた効果にプラスして僕以外の男性がアリシアさんに触れないようにしてみました。これで安心ですね」


 褒めてくださいと言わんばかりのヒースに呆れた目を向ける。


「ねえ、ヒース。さすがに心が狭いと思うわ」


「なんとでも言ってください」


 自分でも自覚があるのか、スッと顔を逸らされた。


 結局、説得して妙な付加は消してもらったが、諦め切れないのかその後も隙あれば何かしらの魔法を付け加えようとしてくるので全く油断できない。


「あっ、家を飛び出してきたからお姉ちゃんとルディアスさん心配してるかもしれないわ。一回家に帰らないと……一緒に戻ってくれる?」


「ふふ、そうですね。アリシアさんをくださいって言いに行かないといけませんからね」


 機嫌良く私の手を取って立たせる。


「反対されるでしょうけど、もちろんアリシアさんは僕の味方をしてくれますよね?」


「もう、何言ってるのよ。誰も反対なんかしないわ。お父さんもお姉ちゃんも優しいもの。大丈夫よ」


 安心させるように髪を撫でてあげると何か言いたげな目で私を見てきて、結局何も言わずに溜息を吐かれた。

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